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~片翼の愛しいキミ~ 「愛すべき人」
「やあ、マリア。久しぶりだね。」
「やっ、久しぶりも何も今日の昼間に会ったじゃないか。」
「確かにね。けれどキミと離れていたこの時間のなんと長いことか。
この美しい月の夜にキミと偶然にも巡り会えたことのはすばらしいことだよ。
愛している、マイ・スウィート。」
「…偶然?いつもどこからかやってくるくせに?」
「まあ、それはおいておいて。今日は散歩かい?
こんな夜更けに出歩くのは感心しないよ。マリア。」
ああ、マリアはなんと無用心なことをするのだろう。
ボクが通りかからなかったらどうなっていたころやら。
無統治王国エルデンは決して治安が良いとは言えない。
否、致命的と言っても良いほど悪い。
マリアの住んでいる家は治安の面で言ったら大丈夫だろうと思われるところにすんでいるけれど、潜り込めないほどではない。
そう、このボクのように!
けれどマリアが今いるのは家ではない。
マリアがいたのは13区。それも人の寝静まった深夜。
ふと胸騒ぎがしてマリアを捜してみればこんなところで歩いている。
はっきり言って魅力的なマリアが一人っきりで歩いているのは狙ってくれといわんばかりじゃあないか。
これは責任もって家まで送る必要がある。
「必要ないよ。ローズがいるから」
「そう必要…ってマリア!なぜボクの言っていることがわかったんだい。
いや、これはまさに愛が可能とする意思伝達の力!」
「自分で声に出して言ってるんだよ。この大バカ!!」
「フッ…心に秘めておけずに口走るとはボクもまだまだ未熟だネ。
それはそうと、キミは今一人だろう?
ローズという人がどれだけ強いかはわからないけどやっぱり無用心だヨ。」
「いるよ。ここにいる。」
ローズ。それは薔薇のマリアが口にしていた名前。
マリアとは違うもう一人のマリア。
薔薇のマリアとマリアは同じだけれど、ローズは別人と言っていいらしい。
とは言ってもボクはまだ会ったことがない。
「ここにって…ここにはキミとボクの二人っきりだけど?」
「当然だよ。だってローズはボクの中にいるから。」
そう言うと、マリアに変化が現れた。
体全体に光を帯び、その光は徐々に白いワンピースを生み出していく。
目は意志の力を失いまるで人形のような印象を作る。
意志が感じられないだけで、ここまで昼と夜の印象が変わる。
昼は気高いマリアローズが、夜に歌うときだけ薔薇のマリアが出てくる。
今ここにいるのは、薔薇のマリア。
感情を凍らせた。歌うためだけに存在する人形。
そして、今日は一人っきりではなかった。
マリアの背後から誰かの腕が見えた。日に焼けない真っ白な腕。
その腕がマリアを守るように抱きついた。
「ハイ♪あなたがアジアン?ハジメマシテ。」
顔は微笑みを浮かべていた。声は確かに弾んでいた。
だが、目が笑っていなかった。
わかる。彼女は自分に好意的ではない。
顔はマリアとうり二つ。腰まである深紅の髪にオレンジの瞳。
赤いポレロに白い蝶ネクタイ。
赤いミニスカートには黒いフリルがふわりとあしらわれている。
マリアとうり二つでも、印象は全く違う。
挑戦的で高圧的な目をしている。
まるで、マリア以外はどうでもいいというかのように。
「はじめましてだね。ボクは昼飯時のマスターのアジアン。
キミは?」
「私はローズ。マリアを守る騎士ってところかしら。
あなたがマリアの言っていた変態ストーカーみたいね。
お会いできて実に嬉しいわ。」
ウソだ。ウソに決まっている。それだけは実に断言できる。
彼女はボクに会いたくなどなかった。
いや、マリアに近づくことすらイヤに違いない。
「ボクも会えて嬉しいヨ。
マリアの言うローズと会ってみたかったからネ。
でも、マリアを守る騎士の座は譲る気は無いヨ。」
「へえ、そうね。マリアにあれだけ愛の告白しておいて助けないってのは実に口だけの男ってなるものね。
まあマリアに言い寄るにしても、それなりの能力を見せないと。」
「ローズ…喧嘩…しちゃ‥ダメ…」
「ああ、マリア。別にこの男と喧嘩してたわけじゃあないから。
そんなに悲しそうな顔をしないで。
あなたはいつも笑っていてね。私のマリア。」
「うん…」
そう言ってマリアはかすかな笑みを浮かべる。
ああ、今日はなんてすばらしい日なのだろう。
たとえその微笑みがボクにむけられた物ではないとして、キミのその姿が見れただけでボクは嬉しいヨ。
「アジアン…どう…したんだろ。」
「マリア。変態の事なんて気にかけなくても良いわ。
いいえ、むしろ視界から消しなさい。」
騎士というか、心配性の姉のようだ。
マリアは全面的に彼女を信頼しているらしい。
マリア…少しだけ嘆いてもいいかい?
「仲いいネ…君たち。」
「当然♪なんたってあなた以上に長い付き合いだし、ふかーい関係だし。」
「え、ええ!?」
「ローズは私のかけら…もう一人別れた私…
私自身…と言っても…いいけど。今は別々…それだけ。」
「あ、ああ。うん、そうだネ。そういうことか。
マリアは二人で一つなんだネ。」
「そういう‥こと。ローズはもう一人の…私。
私の…片翼…といっても…いい…」
バサッと音を立てて何かが広がった。
それは雪よりも白く、けれど耀きを失った一対の翼。
それはどこか悲しくてどこか切なくて。
そして、羽根としての機能を残していなかった。
羽根はボロボロで飛ぶことが叶いそうにないから。
それは空を奪われた鳥のようで、地上に縛られ空に帰ることが出来ない。
「…羽根?」
「そう…私の一部。飛ぶことの…出来ない羽根…
ボロボロで…飛べなくて…醜い…でしょ…。
飛ぶこと…出来ないと…知りつつも…願うことをやめられない。」
「別におかしいことではないと思うヨ。
望むのも願うのも自由だと思う。
誰だって叶えたいことがあるからサ。」
「そうねえ。私の願いはあんたがさっさといなくなってくれることよ。
それも永久に姿を消してほしいわ。なんなら私が今ここで引導渡すけど。」
「悪いがボクが死ぬときはマリアの腕の中と決めている。
まあ、マリアを残して死ぬ気はないけどネ。
愛しているよ。マリア。」
「やっぱりあんた殺すわ。」
ローズの抜いた剣の範囲からはすぐに離れる。
これ以上は正直危ないので名残惜しいけれどこれまでにしよう。
懐から一輪の薔薇を取り出す。
愛しのマリアローズの名前のかけら。
そして薔薇が空を舞った。
「その薔薇はキミに捧げよう。またネ。マリア。」
「…またね。」
キミが何であろうとも。ボクの思いは変わらない。
ボクの愛しい片翼のキミへ。
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