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迷った。ええ、これはもう綺麗に迷いました。
……どうしよう。
血まみれの薔薇(ブラッディローズ)。ただ今絶賛迷子中。
エルデンの路地裏で彼女は一人迷子になっていた。
話は数時間前にさかのぼる。
「マーリーア。ちょっと散歩してきてもいい?」
「え、やめておいた方がいいよ。もう夜だし。」
「へーきだって。ちょっとそこまで買い物してくるだけだし。」
「それなら僕が行くよ。ああ、いっそ二人で行こう。」
「だめだめ。マリアはアンダーグランド行って疲れてるでしょう。
だからこの時間はもうお出かけしちゃダメ。
というわけでお休み、マリア。」
「えっ。ちょ、ローズってば!」
強制睡眠終了。きちんと寝かせつけていざ出動。
「ミャ?」
「アハハ、大丈夫だって。ルル。
いつものお店くらい私だって一人でいけるよ。
お土産買ってくるからお留守番お願いね~」
ドアが閉まる音が聞こえても、不安げに鳴くルルの声が途絶えることはなかった。
ルルの心配が的中するまであと数分。
ローズは、いつも通り階段を下り、いつも通りに店の正反対の方向へと歩いていったのだった。
そして、彼女は裏通りでうずくまる。
「バカバカバカ~私の大バカ者~。ああ、なんで私こんなに方向音痴なんだろう。
マリアに言い切った手前、起こすのはいやだし。
かといって自力で帰るのは絶対に無理~」
いつまで経っても目的地に着かない。
いつまで経っても家にたどり着かない。
人はそれを迷子と呼ぶ。
彼女、ローズの弱点は生活能力の皆無さとまれに見る方向音痴。
だからこそマリアはローズをアンダーグラウンドで呼ぶことはないし、ローズも普段は外出をしない。
しかし、たまにはこう言うときがある。
「へへ、女の子が一人で出歩いていちゃあいけないなあ。」
「オジョーサン、イッショニアソビマショー。」
「ゲヘヘ、いい女じゃねえか。」
うずくまる少女に声をかける数名の男たち。
はっきり言ってうさんくさい。
無視してやり過ごすことにする。
「待ちな、無視するなよ。」
「うるさい。私は気が立ってるの。死にたくなかったらさっさと消えなさい。」
「へ、気の強い姉ちゃんだ。なあ、こっちにこいよ。」
無神経な男が腕をつかもうとする。
その瞬間にわき上がるのは強烈な殺意。
「触るな。」
そこの言葉と同時に、男の体がゆっくりと崩れ落ちる。
ローズの手にはむき出しの刃が握られていた。
血を振り払って男たちを見つめる。その瞳はどこまでも冷たかった。
殺すと言うことが呼吸するように容易く出来る者。
それがローズという人間だった。
「まだやる?」
「う、うわああああああああ!!!」
恐怖に駆られた男たちはがむしゃらに突っ込んでくる。
しかし、それをまるで踊るようにかわして、その刃を突き立てる。
時間はかからなかった。
「はあ…また怒られる。」
「誰にだ?」
突如かけられた声に、振り向くとそこには大剣を携えた男が立っていた。
面識はないが知っている。
マリアの仲間だ。
「人の気配がするから来てみれば、ずいぶん派手にやったな。」
「ま、まあね。一人だったし、あいつら逃げないしさ。見てたんなら助けてくれたらいいのに。」
とっさにマリアの振りをしてやり過ごす。別に難しい事じゃあない。
クラッカーをしていないときに、マリアの振りをすることはあるけどこいつらに気づかれたことはない。
適当にやり過ごして帰ろうと決意したとき、首に冷たい感触が生まれた。
「それで――お前は誰だ。」
「は?何行ってるのさ、マリアローズに決まってるじゃない。」
「違うから聞いている。お前はマリアではない。」
男は、その大剣をマリアの、否、ローズの首筋に当てて言う。
「前からおかしいと思うときがあった。もう一度言う。お前は誰だ。」
「……そう、気づかれてたんだ。剣を引いて。私はマリアの敵じゃない。
私のの名前はローズ。血塗れの薔薇。マリアを守る騎士。」
「どういうことだ?」
「言わない。マリアが話して良いと言っていないから。でもこれだけは言える。
私はマリアの敵じゃない。お前こそ――誰。」
「俺か?俺はトマトクンだ。」
「……ああ、そうだ。知っている。動物園の園長さんね。
こんなところで会うなんて奇遇というか…ねえ、ちょっと頼みがあるんだけど。」
「なんだ?」
男――クランZOOの園長トマトクンはすでに警戒を解いたらしく、その大剣を鞘に収めていた。
正直なところ見くびっていた。マリアの振りをしていたとき、この男と会話した記憶はほとんどない。すれ違いが多かったのだ。もとよりクラッカーの仕事をしているときに変わることはないし、マリアの振りをすることも少ないのだが。
ならば、この男は、このわずかな時間でマリアと自分の違いに気づいたのだ。
こんなのは初めてだった。
「ちょっと道に迷ってね。うちに帰りたいんだけど場所わかる?」
「ああ、それだったらあの高い建物を目指せばいい。あれを目指していけば道が違っていても絶対にたどり着けるだろう。」
「なるほど。それは良いことを聞いたわ。今度から参考にさせてもらうね。
それじゃあマリアを起こさないうちにさっさと帰りましょ。」
そう言って男を見もせずに立ち去ろうとすると、その手をつかむ大きな手があった。
「……もう私には用はないんだけど。はっきり言って護衛も必要ないから。」
「いや、なんというか。いろいろ聞きたいこともあるんだが教えてはくれんだろう。だから送る」
「は?」
「察するからにお前は迷子だ。見知らぬところに迷い込んだ割にあんな目立つ家がわからないってのは、よほど外に出たことがないか、方向音痴のどちらかだ。
このまま送り出してもたどり着くのは時間がかかりそうだ。
だからさっさと送ることにする。」
「勝手に決めないでよ。私はあなたと行く気は無いんだけど。」
「マリアを起こしたくないんだろう?」
爆弾が投下された。それも最大の爆弾が。
ええ、起こしたくないよ。最近仕事が続いてて疲れていそうで。
でも家事はちゃんとやって私やルルの相手をちゃんとして。
夜くらい、ちゃんと寝かしてあげたいよ。
葛藤があった。こんなやつの言うことを聞きたくないというのと。
夜通し歩いて、結局マリアが起きると体の疲れが取れていないという予測。
………結論が出るのは早かった。
「仕方がないから、送らせてあげる。
でもね、これはマリアには絶対にナイショだからね!」
「わかった。いくぞ。」
「案内役が私を置いていってどうするのよ!待ちなさいってば!」
どうにかマリアが起きる前に家にたどり着き、ルルを買収(オヤツ)して口止めした。
結局、この日の出来事はマリアは知らないまま。
けれど
『なんか最近トマトクンが不思議そうな目で僕を見るんだよね。』
ごめん、マリア。
私のことばれたって言えない。
それ以後、ローズは帰宅時間だけは早くなった。
だが、目的地に着くまでの時間は相変わらず長かった。
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