忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ルルと知らない誰か(改訂)


 ワタシは生まれてから、お月様を三回見ただけの子猫。黄金色の毛に黒いライン。金色の瞳と緑色の瞳が自慢なのよ。
 生まれた時はちゃんとお母さんと一緒だったの。似たような毛並みの兄妹たちに囲まれて、みんなで寄り添いながら暮らしてきた。
 人間に追い払われたり、雨にうたれて動かなくなったり。一匹一匹消えていって最後に残ったのはワタシだけ。
 いつのまにかワタシのそばには誰もいなくなってしまったの。
 あの人と出会ったのは、あの暗い路地裏をさまよっていたとき。あの人は私の前にしゃがみ込んで―
         
『そこでなにやってるのさ』
        
 薔薇のような真紅の髪。お日様みたいな橙色の瞳。雨にうたれながら、その雨傘を私に差し出してくれた。汚れたちっぽけなワタシを、その手に抱きしめてくれた。
 その時に、この人のそばにいるんだって思ったの。その暖かな腕の中、ワタシの居場所だってそう思えたから。
 マリアはとても優しい人。夜は寒いからってワタシを布団の中に入れてくれる。ワタシはいつもマリアの腕の中で丸くなるの。朝起きたとき、誰よりも早く『おはよう』って言いたいから。
 ご飯だって二人で食べてるのよ。たまにマリアが『美味しい?』って聞いてくるから『美味しいよ』って答えるとマリアが笑うの。
 笑っているところを見るのが一番好きだけれど、普段はあんまり笑ってくれない。
 でも私の前ではちゃんと笑ってくれるのは嬉しい。
 私は今、ジムショでマリアを待っている。マリアが地下に出かけている間はここで待つのが約束。
『一緒について行く』ってついて行こうとしたら怒られた。
 しょうがないからおとなしくしてる。でもマリアがいないから暇。
 早く帰ってこないかな…。
        
        
 しばらくお昼寝してたらマリアが帰ってきた。
 『お帰りなさい~』って言いながら近寄ると頭を撫でてくれる。
 今日はけっこうもうかったみたいだから、マリアもご機嫌。私も嬉しい。
        
 む?あのお魚、私を撫でようとするなんて。ムカついたから、手の爪を軽く立てて顔をひっかいてやったら逃げていった。
 ふーんだ。お魚の分際で私を捕まえようなんて百年早いんだから。
        
 小っちゃい子はマリアの仲間の中では一番小さいみたい。でも私よりは大きいんだよね。
 何でか知らないけれど、私のことを『ミーちゃん』って呼びたがる。その名前はやめて欲しい。私にはちゃんと『ルル』って名前があるんだから。
        
 ウサギみたいにフルフルしている女の子。マリアと同じくらい? 
 私を撫でたそうにしてるけど、触れようかどうしようか迷うのはどうかと思う。どっちかにしてほしいな。私の気が向いたら撫でさせてあげてもいいの。
        
 細い人はちょっとしゃべり方が違うの。でも私の言葉と違うのは確かだからあんまり興味がないの。
 たまにじ~と見つめてるけど、なんなんだろう。
 なに、マリア。なんで細い人に私を渡すの。

『別に、ルルはひっかいたりしないとと思うからだっこしてみたら?』

 ちょっと待ってよ。マリア、勝手に決めないでよ~。
        
 目の前にでっかい人がいる。というかこれって熊って言うんじゃないかな。マリアが話したのを聞いただけで見たことないけど。
 私の目や毛並みのことでウンチクというものを話してるらしいけど、興味ない。
 マリアが綺麗だってほめてくれたからそれでいいの。
        
 一番よくわからない人がいる。いつも寝ていてばかりののっぽさん。
 でもマリアはけっこうこの人のこと頼ってるみたいだし、園長というから一応偉いらしい。
 ふ~ん、こんな人がね。いつも寝てる人だから、おなかの上に乗っかるといいお昼寝の場所にはなる。うん、役に立つかも。
        
 マリアのそばには人がいっぱい。でも、だれも彼女のことには気づかない。
 ねえ、マリアそっくりなあなたは誰?
        
        
「ルルってさ、結構鋭いよね。あたしのことすぐに気づいたよ」
「ルルは賢いよ」
        
 地上を離れた塔の上。その縁にマリアは腰掛けている。
 まねして私も隣にちょこんと座ってみる。
        
「ZOOのやつらに私のこと言う?」
「たぶん、まだ言わない。どう説明して良いか。よくわからないし。
  …ローズのことがキライって訳じゃないんだよ」
「うん、わかってる。マリアのことは私が一番よくわかってる」
        
 そっか。この人ローズって言うんだ。名前わかってよかった。
 ワタシはそれで満足。
        
「どうせ私は普段表に出ないもん。今のままでいいんじゃない?」
「…ローズは、外に出なくて良いの?」
「だって、私が出来ることといったら殺すことだけ。私はマリアと違ってあいつらあんまり信用してないし、クラッカーも興味がない。私はマリアが守れればそれでいいよ。だから、たまには私を呼んでね」
「うん。わかってる」
「マリア、私はずっとそばにいる。だから、一人じゃないよ」
「ローズ、僕もずっとローズのそばにいるから寂しくないよ」
        
 そう言うとマリアが立ち上がる。マリアの隣にいるのは私だけ。
 ローズはどこにもいない。ローズはマリア。マリアはローズ。
 二人で一人のマリアローズ。
        
「ルル。中にはいろっか」
『うん、寒いからね』
        
 ワタシはマリアと家に入る。そこが私たちのお家だから。マリアとローズ。私は彼女たちのことが好き。
 でも一番好きなのはマリア。
 ワタシはルル。マリアのことが大好きな子猫のルル。
       
 
PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする:

Copyright © 月歌想 : All rights reserved

「月歌想」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]