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輪廻 ~殺生石~ 後編


  そして、泰山府君祭の日を迎えた。
この日のために宮廷には多くの人が参加していた。
祭りを行うものたちが、その開始を告げる。
そして、それを平然と見つめる玉藻の前の姿があった。

(人にしてはおもしろい力があるようだが、妾には勝てぬよ。)

  彼女にとって、この祭りはただの遊びに過ぎない。
妖の血が混じる安倍晴明の時代ならば話は別だが、今の安倍では自分に勝つことはできない。
自分と同じ妖孤の血はすでに眠りについている。
だからこそ彼女は妨害することをしなかった。
法皇が死ねば次の国へ行く。
このときもそうなるはずだった。だが、彼女の油断が後の歴史に大きく影響する。

   祭りが始まってしばらくした頃、玉藻の前が突然苦しみ出す。
急に苦しみだした様子を見て、何かの発作と思い駆け寄った女官達だったが、すぐに悲鳴が起きた。

    黒い髪は色を薄くし金髪に、うつろな黒目は金の目に。
爪は伸び、頭からは2つの獣耳、九つの尻尾が現れる。
その姿はまさしく妖狐。

「泰成!きさま、何をした!!!」

冷たい瞳を見せた玉藻の前は、妖艶なる妖孤の姿へと変わった。

「・・・・わ、わたしは・・・・」

 泰成はただ呆然としたまま、私を見つめている。
私の言葉も耳に入っていないようだ。
何を見たのかは知らないが、この男が私の姿を暴いたわけではない。
それはもっと別の力。人が持つべき力ではないもの。
ここにはなく、もっと別の世界に属する力。

「本性を現したな。貴様を抹殺する。」

 その言葉で、泰成の付添の陰陽師に目を移す。
そして、あることに気づいた。
自分の油断だった。いつもならすぐに気づくことが出来たのに。
泰成を見くびっていた。
確かに彼1人ならばなんとかなる。だが協力者がいたとしたら?

 「霊界か・・・邪魔をしおって。」

そこにいたのは霊界特防隊の1人だった。

 自分は今までにも殷や周、インドなどで混乱を招いてきた。
抹殺対象になってもおかしくない。
いや、人間界を利用する霊界にとって、自分は災いの種にしかならない。
でも、それを望んだのは私自身。

 玉藻は狐の姿に戻り、宙を舞った。
霊界のやつらを殺すことはできるだろうが、彼らは守る力が強い。
反撃を食らうことは充分考えられる。
チャンスをつかむために玉藻の前はしばし逃げることにした。
しばらくするとある野原に出た。
そこに降りようとしたとき、何かが射られた。

「くっ、追っ手か。」

 霊界特防隊が姿を変え、人間と共にやってきた。
それを迎えるため、玉藻は妖孤の姿へと変わった。
 
「玉藻の前、お前をここで抹殺する。」

(今ここで死ぬわけにはいかない。私が死ねばあの子が・・・)

「玉藻、観念するんだ。
いくらお前でも、この人数ではどうすることも出来ないだろう。
大人しくついてくるんだ。」

 泰成は悲痛な顔をして玉藻を見ている。
そのことに違和感を覚えた。なぜあのような顔をする?
あんなにも私を殺そうとしていたというのに。

 「私は過去見が得意なんだ。お前の過去を見させてもらった。
お前が混乱をもたらしたのは、お前の」
「言うな!!!」

 玉藻からは強力な妖気がわき出る。傷を負ってもなお、彼女は誇り高かった。
冷たい目が泰成を見据えている。

 「人間界を混乱させるのは楽しかった。」

  伝えるわけにはいかない。それは私と終夜だけが知っていればいいこと。
運命を壊すため、それだけのために私は敵となったのだから。
人の世界を破壊へと導く、憎き悪女。それこそが私にふさわしい。

「ただそれだけじゃよ。他に理由などはありはせぬ。」
「玉藻・・・」

 いつの間にか特防隊が彼女を取り囲む。

「はじめるぞ。」 

 手のひらに集中した霊気が彼女を襲う。鮮やかな衣が赤く染まっていく。
手足に鋭い痛みを味わいながら、彼女は立ち向かう。

「うぅ、貴様ら・・・・死ねえ!!」

 幾多の炎の玉が一斉に向かう。だが、ふいにそれが消えた。
いつの間にか光の輪が彼女を包む。

「どうやら・・妾の負けじゃな。だが、これだけは妾の勝ちじゃ。」

 彼女が取り出したのは手のひらに収まる水晶玉。
玉藻がそれに妖気を集中させると、その玉はかんたんに砕け散った。
あたりに水晶のかけらが散らばっていく。
かけらの一つ一つが月の光を反射する。

 「しばらく・・・眠らなければ・・終夜(しゅうや)・・後のことは頼む・・わ・
1人にさせて・・・ごめんね・・・」

 最後につぶやいた名前は誰も聞き取ることができなかった。
その同時刻、一人の青年が涙を流し、一人の娘が泣き崩れた。

 

 玉藻の体は石化していき、やがて大きな石の固まりとなった。
後にある僧が名も知らぬ女性に請われ念仏を唱えると石は砕け四方に散った。
石の1つは那須野原へと落ちたが、その石からは強力な妖気があふれ
近寄る者を死に至らしめたという。

 これが那須野原に伝わる伝説である。
そして、一人の娘が平安の都に舞い降りる。

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