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輪廻 平安編~さまよう娘~戯れ

    蝋燭の揺らめきの中、2人の男女が座っていた。男性のほうがやや若い。
女性の前に置かれた水の入った器には、竜に乗る女性が映し出されている。
その様子に満足げに笑みを浮かべるとようやく口を開いた。

「ここに来るのがずいぶん遅れたこと。アキ、あなた意地悪とかしなかったでしょうね。」
「ずいぶん信用がないようですが、母上のお気に入りに手を出さないと言ったはずです。
私の正体を怪しんでいましたが、特に支障はないでしょう。」
「それはそうでしょう。あなたは母である私から見ても、十分胡散臭い人間に見えるわね。
といって、私を知らない彼女があなたとの繋がりを知ることはないと思うけど。
「そのことで聞きたかったんですが、どうして母上のことを知らないんです?
彼女と母上の繋がりを考えると、知らない方がおかしいと思うのですが。」
「確かに私は元は妖孤、けれど人間界で土地神となった今は妖孤とは言えないわ。
一族から離れた私を認めず、存在を抹消したの。まあ、私のことを聞いていたとしても、
人間界に行った姉がいるとだけしか知らないでしょう。それも変わり者としてね。」
「それは残念ですね。彼女…銀蘭は私の従姉妹になると言うのに。」
「あの子結婚早かったから、アキより銀蘭のほうが年上になるけどね。」

金色の髪の女性は、水に映る銀蘭の姿を優しく見つめる。
黒い髪に黒い瞳、その姿は彼女の両親のどちらにも似ていない。
否、妖孤の姿ですら共通する姿を見つけるのは難しいだろう。
けれど、その眼差しは確かに銀蘭の母であり、自分の妹である彼女…鈴菜の面影を残している。

「あなたが伯母だと言うこと、銀蘭には伝えないのですか?」
「まだ言わない…というより言える訳がないでしょう。
自分の伯母だというのに、玉藻が霊界に狙われていると知っていても何もしなかったのだから。
いくら、玉藻が私の協力を拒んだといってもね。
「玉藻の場合はあなたを巻き込みたくなかったからだと思いますがね。
一応土地神のあなたを霊界と敵対させる訳にはいきませんし、それに頑固そうで言い出したら聞かなさそうな方でしたし。
「一応は余計よ。全く、玉藻は鈴菜によく似ているわ。
母親の悪いとこを受け継いじゃったのかしら。
「さあ、こればっかりは母上しかわかりませんよ。私は叔母上には会ったことが分かりませんから。」
「そうね…そうでしょうね。鈴菜が死んだ後にあなたが生まれたのですからね。」
「まあ、叔母上の話はまた今度にしましょう。
従姉殿を迎えに行ってきますので、留守をお願いします。」

青年が扉の前まで進むと、ふと思い出したように振り向く。

「ああ、母上に言い忘れていました」
「あらなあに?」
「銀蘭には手出しはしませんが、若い子孫とちょっと遊んできます。」
「あなたとは霊力も違っているというのに、まあ好きになさい。
でも余りケガをさせちゃだめよ。人手は多い方がいいんだから。」
「わかっていますよ。遊ぶ程度にします。」

青年が外に出たのを確認すると、女性は小さな数珠を取り出した。
それを愛しそうになでると、そっとつぶやいた。

「大丈夫…鈴菜、あなたの分まであなたの娘たちを守りましょう。」

妹たちには何もしてやることが出来なかった。けれど、同じ過ちを犯すわけにはいかない。
死んだ妹夫妻の分まで、残された娘たちを守ること。
それが私に出来る精一杯の償い。


 青い竜はゆるやかに鞍馬山へと降り立った。
山はひっそりと静まりかえり、何者の気配も感じない。
普段なら参拝客でごった返すはずなのに、一人として姿を見せない。

「どうやら、何者かが結界を貼ったようですね。
監視されているか、罠かはわかりませんが。
「敵か?」
「今のところは敵意は感じぬよ。まあ用心するにこしたことはあるまい。」

皆が緊張に包まれた。その瞬間、草むらから何かの音が聞こえてくる。
全員が武器を構えたとき、誰かが泰成に抱きついてきた。

「お助けください、陰陽師様!」
「な…な、な、何をするんですか!!!」

草むらから飛び出してきた少女は、呪符を構えた泰成に飛びついた。
見たところ14、5の少女は麻の衣をまとい、植物のひも薄い茶色の髪を乱暴にまとめている。
いきなり抱きつかれた泰成は、パニック状態に陥っていた。

「あ~、事情はわからぬが手を離してやってくれないか?
泰成は蛇晃と違って奥手だからな。」
「雲仙殿!何を言われるんですか」
「そなたこっちにおいで、男どもは放っておこう。」
「あ、どうもすみません。」

いまだに雲仙にからかわれている泰成を放って置いて、少女に目を向ける。
少女は怯えた目をしながら、それでも助けを求めていた。

「私、天って言います。
麓の村にすんでいるんですけど、御山の方から妖怪がやってきて村を襲っているんです。
死者は出ていませんけどけが人がたくさんでてしまって…私、助けを呼びに以下名キャって思って。」
「やはり敵か、村人にこれ以上危害をくわえさせるわけにはいかないな。
銀蘭、泰成、そちらを先にしよう。」
「そうじゃな。蓮花、桜麗、先に行って敵の場所を探れ。」
「かしこまりました」
「まかせといて!」

蓮花と桜麗が姿を変えると、あっという間に飛び去っていった。
それを呆気にとられて見つめた天が、銀蘭を向いて言う。

「あ、あなたも陰陽師様ですか?」
「一緒にするでない。あくまで陰陽師はそっちじゃ・」
「陰陽師の安倍泰成と言います。
あなたが見た妖怪はどんな姿をしていましたか?」

ようやく冷静さを取り戻した泰成は、話を聞く余力が生まれたのだろう。
問われた天はとっさのことでよくわからなかったとしながらも、たぶん虎だろうと言った。

「牙や爪がものすごく大きくて、村にあった武器は全然効かなかったんです。
村の人はほとんどやられてしまいました。陰陽師様、敵を取ってください!」
「わかりました。出来るだけのことをします」

二人の話を余所に、銀蘭が辺りを見回す。
不思議そうに首をかしげていたとき、声がかけられた。

「気になるか?」
「気になるというか、怪しいじゃな。都合が良すぎる。」
「まあそれは言えてるが、お前や泰成と違って儂はその方面に疎いから任せる。
だがわざわざ加減をし、それに隠れる気も無いようだ。
まるで儂らをまねいているようだな。」
「・・・・囮か」

グオオオオオオオオオン
突如聞こえた咆哮が、辺りに響き渡る。
地面を駆ける音と、空を切るような音が争っていた。

「来るぞ!」
「銀蘭様、離れて!」

草むらから現れたのは、真っ白な毛に覆われた虎。
その虎は銀蘭に向かって、その鋭い爪を振り下ろす。
 

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