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…ここは…どこ…誰か…いる。
あれは……姉様と…私?ああ、これはあの時の記憶だ。
姉様が私を置いて人間界に行ったときの記憶。
『姉様、行かないでよ。?蔵馬も一緒に行く。』
『ごめんね。でもすぐに帰ってくるからいい子にして待っていて。』
『…じゃあ、蓮花と一緒に待ってる。…だから、早く帰ってきてね。』
『ええ、姉様との約束よ。蓮花の言うことをよく聞いてね。
お土産もって帰ってくるわ。蔵馬。』
(………ダメ。これ以上見てはダメ……。)
『姉様はいつ帰ってくるのかな?』
『もう少ししたら帰ってきますよ。
玉藻様が蔵馬様との約束を破ったことはございませんから。』
(……これは違う…これは…この先の姉様は、姉様なんかじゃない。)
『あれ、姉様。どうしたの?ねえ…体はどうしたの?
どうして霊体で帰ってきたの?……姉様?』
(これは私の恐れが生んだ悪夢。姉様が私を恨んでいるのではないかと。)
『蔵馬…なんであんたがいるの?』
『ねえさ、ま?どう‥し…て』
『あんたなんて生まれなければよかった。
あんたがいるから父様も母様もみんな死んだのに。
どうして、あなたが生きているの?
『…私のせい…』
そう、私に関わった人はみんな死んでいく。
だから私は誰とも関わってはいけない。…でも、寂しい。
そばにいてほしい。
(一人で生きていくことなど、出来やしません。
だからこそあなたは私たち二守を置いているのでしょう?)
『蔵馬、殺してあげる。。
だって本当は、生まれたときに死ぬべきだった。
アンタの存在そのものが‥生まれてきたことが間違いだったんだ。
だって、あんたは破壊者なんだから!』
(いいえ。あなたの本質は違う。
あなたはとても弱くて優しくて、そして傷つきやすい人。
だからこそ、私たちはそばにいる。さあ、起きてください。
その人があなたの姉様ではないことを、あなたはよく知っているはず。
だってあなたの姉様は誰よりも暖かくて優しい人なのだから。
『姉様が封じられた?嘘だと言ってよ、蓮花!』
…そう、姉様は封じられてしまった。ここにいるはずがない。
…ねえ、私のせいなの?私の大事な人たちはみんないなくなる。
父様も母様も、あの人も。
(いいえ。そんなことはありません。
全てが運命に縛られていたとしても、あなたは悪くない。
もし、あなたが原因であろうとも私たちは、世界を、否、運命を敵にしてもあなたの味方になるでしょう。
さあ、夢から起きてください。悪い夢から抜け出して、蔵馬様。)
ずっと暗闇の中だった。
誰もいない暗闇の世界。そこを一人で進んでいた。けれど、誰かが私を呼んでいる。
その声に導かれるように進むと、そこには光があった。
光の彼方でいつもそばにいてくれる彼女が私を見つめていた。
「…蓮花?」
「おはようございます、蔵馬様。悪い夢は覚めましたか?」
「…そうじゃな…もう夢は見ぬ。」
夢の中よりも現実の方が悪夢。だから悪い夢はみない。
「お前が寝坊とは驚いたな。さあ、早く朝餉にしよう。
今日は鞍馬山に向かうんだろ?」
「おはよう。…雲仙が妾より先に起きるとは雨でも降るかのう。」
「それは酷くないか?儂もちゃんと起きるぞ。たまには。」
「へえ~あたしが布団はいで、揺さぶってようやく起きたのにそんなこと言うんだ。
だったら、次は電撃でも使って起こすからね。」
「…まて、それは止めてくれ」
「そうですね。蓮花、電撃なんて使ったら部屋が傷むから、それはやめなさいね。」
「おい、何か違わないか」
「それじゃあ水をサバーンとかぶせるとか。」
「後始末を誰がやると思っているの。もっと別な方法を考えなさい。」
「だから人の話を聞けといっとるだろうがお前ら!!」
朝からの騒ぎを横目に、銀蘭は黙々と朝餉を食べていた。
騒ぎはどんどん大きくなっていったが、ふと何かの音に気づく。
始めは玄関から迫るようにその音は大きくなっていき、それに比例するように誰かの怒鳴り声が聞こえてくる。
それは部屋の前に止まると、いきおいよく障子を開けた。
「あんたら、なんで悠長に飯食ってんだよおお!!!」
「…こんなことだろうと思っていましたが…」
「おお、泰成殿、蛇晃殿。一緒に食べぬか?」
「だめ!おかわりできなくなっちゃうんだから。」
「ごちそうさまでした。」
行儀よく食べ終えた銀蘭が片づけをするために立ち上がる。
だが、その視線が泰成と蛇香を向いた。そして、彼女は言った。
「そなたたち、もう来ておったのか。おはよう。」
「お、おはよう…」
「あんた、実は朝弱いだろ…んで今気づいたろ。」
騒ぎを放って置いたのではなく、ただ単に頭が覚醒しきっていないだけだった。
結局、全員が食べ終わるまでしばらく待つことになる。
「信じられねえ。集合時間なんざとっくのまに過ぎてるのにのんびり飯食ってるなんて。
あんたらに緊張感って物はないのか!」
「すまんすまん、時間のことを忘れておったわ」
「実に雲仙殿らしいですね」
「全員そろったところで行かぬか?
出る時刻は遅れたが、空から行けばすぐに取り戻せる」
「まった。空からってまさか桜麗に乗っていくとか言うんじゃねえだろうな。
それだったら、俺は絶対に乗らないからな!」
「そうはいかないだろう。今から出ると夜になってしまう。
夜の山が危険なのはお前も知っているだろ」
「お前はあの恐ろしさを知らねえから言えるんだ!」
青ざめた顔をした蛇晃は必死に言い放つ。
先日の桜麗の姿が目に浮かぶ。アレに乗るには命がいくらあっても足りない。
「わかった。お前は帝のそばについてくれ。
俺たちで鞍馬山に行ってくる。それでいいですね。雲仙殿」
「そうだな。では銀蘭すまぬが頼むぞ。
噂の桜麗の姿も見たいしな」
「わかっておる。それでは行くとするか」
そう言って部屋から出ていくと、最後に蛇晃と桜麗が残った。
「蛇晃、そんなにあたしに乗るのいや?」
「お前なあ。
自分がどういう飛び方してるか考えたことあるか?」
「ない。それに私、前に蛇香乗せたのが最初だったし。」
「最初…いいか、お前の主を落としたくなったらなあ、何が何でも絶対に安全運転で行け!
俺は責任を持たんからな!!」
「…まあ、そうするわ。」
その日、空に出現した竜はゆっくりと鞍馬山に向かっていった。
それを見送ると、蛇晃はため息をついて宮廷へと向かった。
竜が目撃されると騒ぎになるのはわかっていたが、だれもそのことを追求しない。
決して考えたくなかったからではない。
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