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僕には手放したくない物がたくさんある。
たとえば子どもの頃に母さんからもらった歌集。
ジェンさんが僕の誕生日に作ってくれたビーズのブレスレット。
それから、やっぱり家族は大事だねえ。
今は家にいないけど、母さんとかマシェル君とか。
もちろん、ジェンさんやロッタルクさん、グレイスくんにゼオンくんたちもとっても大事だね。
大事な家族だから守らなきゃって思う。
……それから、それから……
「それからなんだ?」
「……やあ、カディオ。どうしたのいきなり。」
「いきなりも何も寝言でブツブツ言っていたのはお前だろう。」
天気は晴れ。場所は風竜家近くの崖の上。
そう、ここは僕の絶好のお昼寝ポイント。もちろん、うちの子たちはみんな知っている。
そしてカディオもよく知っている。
当然だ。何せこの場所を教えたのは僕なんだから。
長い付き合い故か、カディオは僕がいる場所をすぐに突き止めてしまう。
それが僕にはとても嬉しい。
だって、僕がどこにいたってちゃんと見つけてくれるんだから。
「…いつも思うんだけどさ。カディオはここにどうやって来てるの?」
「ここ…ってこの岩の上か?」
「うん。そりゃあ僕や家の子たちは空飛べばいいけど。
カディオは風竜術使えないでしょ。
それに子どもたちがぼくと一緒にいるときは上に上がってこないし。」
「いや、普通に登って。」
「普通に言ってその説明無理があるから。全く…いつもの秘密主義にも困ったものだよ。」
「…悪い。」
「悪いと思っているんだったら、やめてよね。」
「………」
ああ、またやってしまった。
わかっているんだけどね。カディオの訳ありのことは。
僕にはどうしても言いたくない“何か”だって。
その訳ありの力でここまでやってきたんだろう。
きっと、その力じゃないと出来ないこと。コーセルテル全貌を見渡せるこの場所で。
何しろ僕が来る前にカディオがいることだってよくあるんだから。
「…ここは景色が良いだろ?」
「そりゃあね。僕もそれが気に入ってるし。」
「ここなら、いろんなものが見えるから…だから、風に頼んだんだ。」
「……は?えーと…それは風竜術?」
「……違う。」
風竜術じゃあない?かといって木竜術もあり得ない…すると。
「カディオ!精霊術は使っちゃダメって!!」
「わかっている。それとは別なんだ。」
「………別?」
「共鳴術…世界の本質の力。これは使うことは許されてる。
『守人』の時だけに。」
「ああ、そうだったね…忘れていたよ。」
『守人』それはコーセルテルを守るもの。外から来た竜術士のみが選ばれる。
コーセルテルへの侵入者をいかなる手段を持ってしても、追い払う者。
ただし、その存在を小竜たちは知らない。
「…誰か侵入者でも?」
「いや、エレが来たのが最後だ。最近は俺も見回りというか散歩になってる。」
「そっか。子竜たちがいるときにこないのは、見られたくないから?」
「それもあるし…出来るだけ知られたくないんだ。」
…言うと思った。
カディオが守人のことを、昔のことを子竜たちに知られたくないことをよく知っている。
僕だってカディオが昔、夢でうなされていたのを目撃したのがきっかけ。
そして全部を教えてくれていないことも知っている。
もう一つ、僕だけが知っている秘密がある。
真っ赤に塗れた服、雨に濡れた姿がまるで泣いているようで。
そして、銀色のうつろな目で僕を見ていた。
「みんなに心配かけたくない、か。
カディオらしいけどノイさんにロイくん…そろそろごまかせなくなってくると思うよ。
それに他の補佐竜たちも色々気づき始めてるみたいだし。」
「ジェンにさっさとばらしたのはお前だろう。」
「んー、僕の場合はさ。家族に隠し事したくないんだ。
それに知っておいてもらった方がいろいろやりやすいし、自分の住んでいる場所の本当のこと知っておいてほしい。」
「お前らしいな。俺は…まだ言えそうにない。」
「いいんじゃない?言いたくないことは無理に言わなくていいと思うしさ。
それと、多分、ノイさんたちはわかってくれると思うよ。
カディオのしてきたことを全部ひっくるめて受け入れてくれるから。」
…あ、すごい呆気にとられた顔してる。
珍しいなあ。こういう素の表情ってあんまり見れないんだよね。
こういうところがすっごく可愛い。
「…そっか…お前が言うなら確かかもな。」
「そりゃあ。カディオんちの子は卵ちゃんの時からの付き合いだしねー。
実はカディオにナイショで相談受けたこともあるよ」
「…えっ!?」
「たとえば『カディオが仕事ばっかりでかまってくれない』とか、『徹夜でお仕事するのどうにかできないか。』ってそんなのばっかり」
「……あいつら。」
「言う言わないより先にさ、もっと遊んであげたら?」
「そうだな。」
フワリと優しい風が吹いてきた。カディオと話しているとこういう事がよくある。
僕にはわかる。風がカディオに対してとっても優しいと言うことが。
風竜はその人が身にまとった空気の匂いで人を見分けるけれど、カディオの纏う空気はいつも優しく暖かい。
それに惹かれるように風も自然と寄ってきている。
「…人の顔に何か付いているのか?」
「あー、ごめんごめん。カディオがとっても優しいって話。」
「……は?」
「優しくて暖かくて…僕の一番大切な人なんだよ。」
「な…何言ってるんだ。お前は!」
「照れない照れない。そういうところが可愛いんだよねー。」
「もうそれ以上言うな!」
「はいはい。」
例えきみがなんであろうと、どれだけ血に濡れていようとも。
僕だけはきみの最後の居場所になりたい。
だってきみは僕の『大切な人』なんだから。
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