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輪廻 平安編 ~さまよう娘~ 決意

「ま、俺の話はこれで終わりだ。ずいぶん長話しちまったな。」

時間はそんなに過ぎてはいないようだった。
けれど、最後にどうしても聞きたいことがあった。
元凶となったあの男のことを。

「その男…女神を殺した陰陽師は見つかったの?」
「ああ、蛇の道は蛇とはよく言ったもんさ。泰成がすぐに見つけた。
だけど俺やアイツでも簡単に手を出せるやつじゃあなくてさ、何もないままだ。」
「そいつの名前、教えてくれる?」
「芦屋道元」

そのとき風が一段と強く吹いた。
季節はまだ夏。けれどこの日はどこか寒かった。

「そっか。あの時の男ね…うん、これではっきりした。あの男は敵!
銀蘭様も嫌っていたみたいだしこれで容赦なく倒せるわ。」
「お前なあ…仮にも精霊の言うことかよ。」

いや、これは精霊ではないだろう。彼らは人には関わらない。完全に別の世界の生きもの。
喜々として人に危害を加えようとするこの少女は、すでに精霊とは言えない。

「彼、きっともう人手はないわね。人を捨てる時って何を思うのかしら。
私は捨てたつもりはないけれど、それでも木から離れたときは寂しかった。」
「さあな、俺たちを襲ったことも理由はわからない。所詮他人の気持ちなんざわからんしな。
ただ、あの男は何かを目的としていた。それだけはわかる。」
「そのうちわかるわよ。それより、最後の質問をしてもいい?」
「まだあるのかよ。そろそろ切り上げねえとどやされるぞ」
「これで最後だから。本当はねこれが一番聞きたかったの。
でもいきなり聞くのもどうかな~って思ったから最後にしてあげたのよ。
ねえ、誠妃ってあなたにとって何?」

蛇晃の顔色が変わった。
ここでごまかしても、桜麗は突き止めてしまうだろう。
ならば今ここで言ってしまった方がいいのだろう。

「そうだな。…きっと俺の全てだったんだ。
母のように姉のように慈しみ、愛してくれた人。そして俺が最初に愛した人。
あの人さえいればそれでよかった。何だって出来た。
笑わせる話だよな。死んでずいぶん経ってから蘇ってくるんだから。。
あの人は、…誠妃は妃瀬彌女神だ。」

(そう、俺の腕の中で逝ってしまったあの人。)

けれど出会ってしまった。昔と同じ顔と声、何一つ変わらない姿で。
昔と唯一違うのは、憎悪に満ちたあの瞳だけだった。
俺が一度も見たことのない顔。妃瀬彌女神と全く異なる印象を持つ人。

「俺はあの人と戦えない。」

(あの人のために戦うと誓った。けれど…今の俺はあの人に味方など出来るわけがない。
それどころかあの人は敵、それでも俺は…)

「いいんじゃないの。それでも。」
「…桜麗?」

桜麗は無邪気な顔をこちらに向けている。
戦えと強制するのではなく、他の道を指し示した。

「あたし、銀蘭様の守なんだよね。
守っていうのは守る者のことであり、魂の契約者を示す言葉なの。
“魂をもって誓う。決して裏切らず、離れず、永遠に従うことを誓約す”
たとえ天地が消え、我が身我が魂が滅びても、我らが想い存在する限り、共にあり続けることを誓約申し上げる。それが守。」
「魂って事は、お前らは転生して先も、銀蘭の魂が滅びるまで従うつもりか?」
「そう。私たちはそれを望んだの。どんなにあの方が生まれ変わっても、私たちは姿を変え、名を変えてそばに居続ける。それはきっと今生から始まったことじゃあない。
今よりずっと昔、遙かに遠い時代から私は守でいたと思う。」
「なんでわかるんだ。」
「もう1人、いたような気がするの。もちろん、あたしが銀蘭様に出会ったのはつい最近。
普通ならそんなこと思うはずないけど、なんとなくそう思うの。
蓮花もそう言ってたしね。“私たちはきっと三人で守をしていたのでしょうね”って。」

蛇晃がもうついていけないと言うかのように、ため息をついた。
守は式神のように付き従うだけだと思っていたが、これはそれ以上だ。

「どうしても戦わなきゃいけないって時はあると思う。
でもそれまでは戦わなくても良いと思うよ。
少なくとも、あたしは銀蘭様と戦えって言われたら絶対戦えない。
あの方を止めろって言われるのならともかく。これだけは譲れない。」
「銀蘭のやつ、キレたら止まらねんだろうな。
ああいう女は怒らせない方が身のためだ。」
「あ~、それ、蓮花が雲仙に同じ事言ってた。」

(ってことは怒らせる寸前までいったのか。
雲仙のやつ結構無神経なところがあるからな…)

「銀蘭様は雲仙のこと気に入ってるから、そう簡単には怒らないだろうけど。
あたし達には怒らないから、どんな風になるかわかんないし。
「出来たら、一生見たくないな。」

相手は自分よりも年季の入った妖狐。
美人なのは良いが、自分に手に負えるかと言ったら話は別だ。
雲仙が平気な顔で接しているのが不思議だ。

(やつは色事には向かないはずだけどな。
つうか、あれは惚れたと言うより、甘やかしてるって感じか。
妹を可愛がってる感じの。)

「銀蘭様のことはともかく、誠妃って人、どうせまた会うでしょ。
その時に話でもしてみたら?何か変わるかもしれないよ」
「お前、簡単に言うな。きっとあの人は俺のことを忘れているぜ。」

立ち上がった桜麗が、腕を組んで考え込む。
しばし悩んでいたが、何かを思いついたように顔を上げる。

「その人、優しい人だったって言ってたよね。人に復讐するとか考える人なの?」
「それはないね。それだけはきっと変わらねえ」

実際、襲撃して来たのは別の男だった。
きっと誠妃は人に危害を加えることはしていないはず。

「可能性だけど、操られてるって事はないのかな。
仮にも自分や仲間を殺した連中に従うとは思えないしね。
妃瀬彌女神は名が変わってるでしょ?
消滅する前に呼び戻されて、偽りの名を与えられて記憶までも変えられていたら、奴らに従うよね」

妃瀬彌女神は人に対抗するだけの力を失っていた。
もし、彼女が消滅する前にその魂をとらえることの出来る者が居たら、そしてその魂を操ることが出来たら、たとえ神でも逆らうことは出来ない。

「すんげえ、有り得る話。ほとんど間違っちゃあいないだろう。
イザナギの話じゃあ、向こうには国津神がいるらしいからな」
「それもかなり強い。操られるのも無理なかったんでしょうね。
それで、どうする?このまま戦うか、無理とわかっていても別の道を探すか。
決めるのは蛇晃だよ」

すでに、日は落ちかけていた。真っ赤な夕日が辺りを照らしている。
動物たちはすでに寝床へ帰り、辺りは静まりかえっていた。

「今度こそ…助けたい。」
「だったら、協力してあげる。」
「お前、本業はどうするんだよ。」
「銀蘭様は良いって言ってくれるよ。あたしもその人に会ってみたいしね。」

どうも桜麗が言うと、そこらに遊びに行くみたいな感じになる。
いや、本気でそう思っているのだろう。

「お前なあ…まあいいや。そう言えばお前、玉藻にあったことあるか?
「あるわけないでしょ。話には聞いたけど」
「顔だけだったら、わかるぜ。何しろ妃瀬彌女神と玉藻はすごく似ているからな。
俺も最初見たときは驚いたぜ」
「それ本当!銀蘭様に教えてあげなくちゃ。さあ、早く帰るわよ!」
「帰るって、今からだと夜になるぜ…て、お前何やってんだーーーーー!!!!」

 それからしばらくして、泰成の屋敷に精根尽き果てた蛇晃の姿があった。
同時刻、雲仙の屋敷でうれしそうに報告する桜麗が目撃された。
銀蘭からほめられてご機嫌だったが、蓮花から多少説教されることになる。

数日後、京に竜が出現し、男の悲鳴が聞こえたという噂が立ったが、真偽のほどはわからない。

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