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輪廻 平安編 ~さまよう娘~ 密談


「あの子が契約を交わすなんてね。人嫌いの姉と同じにならなくてよかったこと。
あなたもそう思わない?」

 暗闇の部屋の中に、うっすらと青白い光が見え、その光を囲むように人影がいた。
1人は20代の黒髪の青年。
緑の狩衣と烏帽子を身につけて、うっすらと笑みを浮かべている。
もう1人は青年とは違い、金の髪を持つ女性。
紅の十二単を身にまとい、葛の絵が描かれた扇子を持っている。

「人嫌いは仕方ないことでしょう。
それにあの姉は人であっても妖怪であっても、嫌うような気がしますけどね。」
「あら、どうしてかしら。」
「妹に害をなすのなら、閻魔だって敵に回すでしょう。」
「オホホホホ。確かにあなたの言うとおりね。」
「残念ながら姉のほうとは会えませんでしたが、妹のほうとは会えそうですね。」
「会うつもり?私に黙って何をする気なのかしら。」
「たいしたことはしませんよ。
それに、あなたのお気に入りと知って手を出すほど馬鹿ではありません。」

 部屋にもう一つ、青白い光が灯る。
その明かりの下に浮かび上がったのは、白く可憐な花である銀蘭。
かの女性と同じ名を持つ花。
いや、この花があるから銀蘭の名を名乗っているかもしれない。

「今回の件は一筋縄にいきません。彼女の力が必要不可欠です。
それにしても芦屋には困ったものです。死んでも私に面倒を押しつける。」
「あら。それ幸いと乗じてイタズラをしたのは、あなたではないかしら。
お友達にも迷惑をかけたことがあるのでしょう?
からかったときの反応が面白いって何度も何度も。」
「あいつのことをあなたにどうこう言われたくありません。
それにあなたも人のことを言えないでしょう。
夫に迷惑をかけたことがないと言い切れます?」

 しばし、お互いに沈黙が流れた。結局、お互い様と言うことである。
面白いことのためには彼らは進んで協力するのだから。

「それにしてもあの男も早く思い出せばいいのに。私1人に全部押しつけて。」
「たまにはいいじゃないの。お互い様だし。」
「そうは言いますけどね。今回の件は厄介なんですよ。私1人では荷が重すぎる。
なので、今回は高みの見物はさせませんからそのおつもりで。」
「仕方ないわね。借りも出来てしまっているし。
それにしても情けないこと。それでも陰陽師ですか。」
「陰陽師は便利屋ではないんですよ。
怨霊や妖怪の討伐が主じゃなくて暦作成などが主なんですから。」
「そうねえ。あなたは本業のくせに暦作成苦手だったみたいだけど。」
「私は現場の方が得意なんです。それに面倒な仕事はやりたくないんです。」
「そう言うことにしておきましょうか。」

青白い光だけがあった部屋に、仄かな光が二つ現れた。
その光の先にいたのは、二人の子どもだった。

 狩衣を身にまとった蒼い髪の少年。その瞳も深い青に見える。
もう1人は巫女装束を身にまとう、朱色の髪に紅の瞳の童女。
2人は明かりの近くに座ると、丁寧に述べた。

「報告いたします。
雲仙様の容態はよくなっているようで、明日にも宮廷に参上されるそうです。」
「続けてご報告いたします。雲仙様を襲った古影は、その場で消失し現在も行方がわかっておりません。
次に他の場所を見に行った者達からの報告ですが、四方の結界が弱まっているとのことです。
現在修復作業が進んでおります。」
「そうですか、ご苦労でしたね。青龍、朱雀。」
「結界にまで手を出すなんて、何を考えている事やら。」

 報告が終わると二人の子どもは暗闇の向こうへと消えていった。
部屋には再び青白い光が満ちる。

「それで、あなたはどうするつもりなのかしら。」
「とりあえずは彼らに会ってきましょう。彼らに会うのは簡単ですしね。
一緒に来ますか?」
「行きたいけれど、私はあなたと違って簡単には動けないわ。
あの子のほうから会いに来てくれるのを待ちましょう。おみやげ話はよろしくね。」
「まったく。山神の1人なのに、高みの見物とは気楽なことですね。」
「高みの見物というのは、貴船の神のような人のことを言うのですよ。
あの方は全部知ってて何もしませんからね。まあ、本来神とはそう言うものですけど。」
「勝手にでてきて、邪魔されるよりは良いでしょう。」

もう用は済んだとばかりに青年が部屋から出て行こうとする。
だが、その足が止まったかと思うと、女性のほうへ振り返る。

「1つだけ、お聞きします。あの娘が銀の破壊者ですか?」
「そうよ。この世で最もつらく悲しい運命を背負ってしまった娘。
アキ、いじめてはだめですからね」
「あなたのお気に入りに手を出して無事だった者はいないというのに。
まあ、しばらくは様子見にとどめておきましょう。
行って参ります、母上」
「行ってらっしゃい、アキ。」

 瞬く間に、青年の姿はかき消えた。
それと同時に青白い光は消え、暗闇だけが残された。


「雲仙、おぬし何をしている。」
「いや、ちょっと刀の手入れをな。やはり道具の手入れはしっかりやらないとだめだな。
ケガをした間、お前に取り上げられていたことだし。」
「そうか。妾の持ってきた食事を忘れてか。」
「あ、いや。それはな・・・」

 見ると、布団の片隅には冷え切った朝餉が並べてあった。
銀蘭が朝餉を持ってきてからもうずいぶんと立っている。

「ぎ・・・銀蘭。怒っているのか?」
「怒ってはおらぬ。ただお前をこのままどうしようかと・・・」
「そう言うのを怒っていると言うんだ。わかった、昼はちゃんと食べる!」
「ほう、ではちゃんと見えるところで食べてもらおう。」

 直後、雲仙は強制的に連行された。
食事を置く銀蘭を見ながら、数週間前のことを思い出す。
自ら名を名乗り、契約を交わすと言った蔵馬の言葉。

『それで、具体的に儂にどうしろと言うんだ?』
『知るか。お前の好きなようにすればいいじゃないか。
お前の望みは我が望み、俺に何をさせるかはお前次第だ。』
『そうは言われてもな・・・』
『いつでもいい。時間はたくさんあるんだ。それまで俺は銀蘭の姿でいるよ。
言っておくが銀蘭の姿の時に蔵馬の名を呼ぶなよ。
忘れるな、俺はずっとお前の味方だから。』

(しかし、どうして本性の時と今の時でこうも口調が変わるんだ。
特徴は違うが両方とも美人。ああ、目つきは一緒だな。あとは・・・)

「・・・雲仙、どこを見ておる。」
「!い、いやこれは・・・」

 知らず知らずのうちに、向かい合わせに座っていた銀蘭の体つきを見ていた。
ちなみに、機嫌を悪くした銀蘭はしばらく口をきいてはくれなかった。
 

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