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輪廻 平安編 ~さまよう娘~ 傷跡

 

   盗賊達を地元の村へ引き渡した後、2人は歩き続けた。
儚げに見えた銀蘭だったが、見た目に反して歩く速度は落ちることがなかった。
おかげで順調に旅を続けることが出来た。

 夜になり、2人は野宿を始めた。
雲仙が取ってきたウサギを銀蘭が手早く料理した。
しかし、銀蘭は料理を作っているうちにある疑問が芽ばえて、ついそれを聞いた。

「たしか僧というのは生臭は口にしないはず。
いいのか?これは肉であろう。」

隣で調理を見ていた雲仙が、まじめそうな口調で言った。

「おぬし、儂に野菜だけで生活しろと?野菜だろうと肉だろうと魚であろうと、生きていくのに殺生することには代わりがない。
だから儂は自然界の弱肉強食に従うのだ。それこそが自然の摂理であろう。」
「言っていることは立派だが、屁理屈に聞こえる・・・・」

雲仙はそれに答えることなく、食事を続けている。
それは簡易なものであったがとてもおいしいものだった。
食事が終わりしばらくまどろんでいると、ふいに銀蘭が立ち上がった。

「どこへゆく?」
「水浴びじゃよ。言っておくが覗いたときはどうなっても知らぬぞ。」
「わ、わかってる。覗いたりはせん。」

その言葉に満足すると、銀蘭は泉の方へ向かっていった。

ふと地面に光るものが見えた。
今日はちょうど満月の日、雲の切れ間から月の光が見えている。
どうやらそれに反射したらしい。

(なんだ?首飾りか)

 雲仙が手にしたのは、蒼い宝玉が金の円盤に留められているもの。
円盤には月と太陽、星をイメージした細工がされている。
月と太陽が左右に、上に星が輝いている。それらに守られるのは蒼い宝玉。
一目見て高価なものだとわかった。

「銀蘭の落とし物のようだな。届けてくるか。」

 その時、雲仙は忘れていた。彼女が水浴びに行ったことを。

泉はさほど遠い場所ではなかった。
近寄るにつれて水音がする。

バシャ

 何か大きなものが水面をはねたらしい。雲仙は迷うことなく進んでいく。
葦をかき分けるとそこに彼女がいた。全身に何もまとわずに、自由自在に泳いでいた。
ふと彼女が立ち上る。その動きにあわせて長い黒髪が舞う。
髪が辺りに広がると、白い肌の背中が見える。

 そこには、羽根のような赤いアザが見えた。まるで二枚の羽が背中にあるように。
雲仙が思わず前に出ようとすると、複数の何かが彼に向かってきた。
それは寸前で彼に当たることはなく、けれど彼が動かないように服を縫いつける。

 この時、ようやく彼はあることに気づいた。
おそらく全ての女性の敵となる行動をしていることに。
慌てて言い訳をしようとしたとき、冷たい声が頭上から聞こえた。

「覗くなと言ったであろう。雲仙。」

 白い着物を身にまとい、全身水がしたたり落ちている銀蘭だったが、
それにかまうことなく雲仙を見据えている。

 この時、彼女はかなり怒っていた。
怒りのあまりに自分が何をしたのかも覚えていない。
ちなみに、覗きの言い訳を考えていた雲仙はそのことに全く気がついていなかった。

「すまぬ。覗くつもりはなかった。そなたにこれを渡しにきたんだ。」

そう言うと先ほどの首飾りを彼女に渡す。

「・・・鎖が切れたか。拾いもののことは礼を言う。だが覗いたのは許さん。」

 夜更けに雲仙の絶叫が辺りに響いた。
しかも身動き1つしない雲仙をおいて、銀蘭は素早く戻っていった。
雲仙がようやく意識を取り戻し、立ち上がった後には小さな木の葉が数枚落ちていたがそれに気づくことはなかった。


「・・・・・・背中のアザを見たのか?」

2人が床についてしばらくすると、ふと銀蘭がつぶやいた。

「赤いアザのことか?まるで羽のようだった」
「妾は・・このアザが嫌いじゃ・・・」

銀蘭は両手で自分を抱きしめる。まるで何かにおびえているかのように。

「・・・・訳あり・・か」

雲仙とは逆の方に顔を向ける銀蘭の表情はわからない。

「いっそ全てはぎ取ってしまえば、アザの形などわからなくなると言うのに」
「物騒なことを。そんなアザがあってもお前の美しさは変らん。
そういえばお前の首飾りもよく似合っているぞ。
普段は隠しておけ、うるさいやからに目をつけられぬような」

 銀蘭は自分の懐から首飾りを取りだし、いじくり始めた。
そっと握り込む様子はまるで幼子のようだった。

「姉様からの贈り物よ。妾の一番の宝物。」
「はやく会えると良いな。」
「そうじゃな。」

姉の名を出したとき、かすかに彼女は笑った。

(早く会いたい・・・姉さん・・・・・)

那須野原に行けばきっと彼女に会える。
かつての殺生石は砕け散り、どの石が最も彼女の思念を残しているかはわからない。
けれど、今まで訪れた石にはどれも彼女の思念が残ってはいなかった。
今までの石に残されていたのは彼女の力の一部に過ぎない。
ならば、最後の残された1つには彼女の魂が封じられているはず。
問題は雲仙だった。

(この男は最後までついてくる。いっそのこと殺してしまおうか・・・)

もし彼が自分の邪魔をするならば、殺すこともいとわない。
銀蘭にとって周りの者は全て敵だった。

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