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輪廻 平安編 ~さまよう娘~ やさしき奏


 雲仙と泰成が帝と面会の時、暇をもてあました銀蘭は草木を眺めるため庭で待つことにした。
宮廷の警備などの話のため興味がなかったらしい。
雲仙のそばには蓮花が控えているので、異変が起きてもすぐに駆けつけることが出来る。
宮廷の人間ではない銀蘭を怪しむ者は1人もいない。
それは、術をかけているために彼女の姿を認識していないからだ。
銀蘭を知らないものには、彼女の姿が映らない。
以前来たときには、ごく限られた人間しか彼女を見ていない。
人目に合わないように行動したため、銀蘭のことはほとんど知られていない。

「銀蘭殿ではないか。一人っきりか?」
「雅家か、仕事はどうしたのじゃ?サボりは感心しないのう。」
「いや~~。
今日みたいにあまりにも天気がいいと、つい足が外を向いてしまうという習性があってな。」
「それを一般的にサボりというのじゃ。」

銀蘭を知っている者には、術の効果が発揮されない。
そのため雅家の行動は正しいのだが、傍目には何もいないところに声をかけるという怪しい光景が見える、
しかし、陰陽師の友人である雅家の行動を今さら気にする者は誰もいない。
なぜなら動物型の式神に平然と話しかける雅家の姿は見慣れた者だから。
今の行動もその一つと思われている。実に普段の行いがわかる。
人目を気にせず、銀蘭に向かって世間話を繰り出す雅家にふと聞いてみたくなった。

「そなたは、妾が恐ろしくはないのか?妾は人ではなく妖じゃというのに。」
「何?なんで銀蘭殿を怖がらねばならぬ?
ああ、そう言えば前にも蛇晃に同じ事を聞かれたな。」
「蛇晃にか。」
「全く同じだな。銀蘭殿や蛇晃の元がなんだろうと、怖いものには見えない。
大体、ここまで美人だというのに、何で恐れる必要がある。」
「・・・・ふふふ、お前はいい男だな」
「だったらいいがな。あ、言っておくが俺は奥方一筋だからな。」
「妾は相手のいる男に手を出すほど、バカではない。
そうじゃ、口止め料代わりに笛を吹いておくれ。おぬしの楽は心地よい。」
「これか?嬉しいな。楽は俺の唯一の取り柄。ではさっそく・・・」

雅家が笛を取り出そうとしたとき、かすかに空気がふるえた。

「雅家、危ない!」
「うわ!」

爆発音がしたかと思うと、瞬く間に火の手が舞い上がった。
辺りに人々の悲鳴と血の臭いが漂う。
どこか体に生じた痛みを感じながら、自分の状況を伺う。
どうやら痛みはたいしたことがないようだ。

(・・・何が起こったんだ?銀蘭殿はどうした?)

一瞬、意識をとばした雅家がふと目を開けると、銀蘭が自分に覆い被さっていた。
その体に触れると、べっとりとした感触が手につく。
見ると頭から大量の血が流れていた。その目は伏せられていて開くことがない。

「銀蘭殿!銀蘭!しっかりしろ!俺をかばったのか・・・」

爆発音を聞きつけた銀蘭は、とっさに目の前にいた雅家に覆い被さった。
その時の衝撃で、体のあちこちに傷を負っていた。
悪いことにケガが酷いのか、彼女は全く反応を示さない。

「待っていろ。すぐに安全な場所に・・・」
「ほう、その女はまだ生きているのか。さすがは妖孤、しぶとい生きものだ。」
「貴様、だれだ。」

火の向こうから悠然と現れたのは、先日、雲仙を襲った古影だった。

「我が名は古影。その妖孤は我々の邪魔をしてくれてたので、その礼だ。
さあ、そこの人間。死にたくなくば、そいつを渡してもらおうか。」
「断る。俺をかばってくれた人をみすみす敵の手に渡してたまるか!」
「武器も持たぬお前が何を出来る。」
「やってみなくてはわからないさ。」

銀蘭を抱え直すと、少しずつ後ろへと下がり始める。
もう片方の手で、自らの太刀を出そうとする。

(雅家・・・策はあるのか。)
「銀蘭殿?起きれるのか。」

どこからともなく聞こえた声は確かに銀蘭の物。
しかし、銀蘭が目覚めた気配はどこにもない。

(そなたの心に直接話しかけている。今だけ考えるだけで話が通じる。
すまぬ。簡単に治ると思うたが思ったよりも傷が深い。)
(いや、俺をかばってくれた。それだけで充分だ。
だから、今度は俺がお前を助ける番だ。)
(ただの人間であるそなたでは、ヤツには勝てぬ。)
(それでも、やらねばならないときがあるんだ。
お前だけでなく、この都の・・・俺が守るべき人々を傷つけた。
やつだけは許すわけにはいかない。)
(・・・・・人は本当に不思議な生き物じゃな。では雅家、そなたの笛だ。)
(笛?こんな時に何を言い出す。)
(そなたの楽には霊力が宿っておる。理由はわからぬがな。
この際その力を見せて見よ。何も考えるな。ただ吹き続けよ。
お前の楽を見せて見よ。)
(承知した)

古影が2人の元へ歩み寄ってくる。
太刀にかけられていた手が懐に伸び、小さな笛を取り出す。
それは葉二。かつて鬼から渡された笛。
ちょうど同じ時、蓮花と桜麗の知らせを知った雲仙たちがやってきた。

「邪魔者が来たようだな。だが、もう遅い。さあ、渡せ!」
「ふざけるな・・・妾はそなたらの手になどかからぬ。」
「こざかしい。ではその男から始末してくれる。」

古影がその手に剣を携えたとき、その音は聞こえた。
どこからともなく聞こえる音は辺りの空気を変えていく。

「これは、雅家殿の笛ではないか。」
「雅家、何を!?」

笛の音が響く。辺り全てを包む込むように。
静かにそして強く、人々がその手を止め音に聞き入る。
それは心をとらえる笛の音。

「貴様・・・ただの人間と甘く見たが、まさかこんな能力の持ち主だったとはな。
まあいい、この場は俺の負けだ。」

そう言い放つと、瞬時に古影の姿がかき消えた。
それと同時に雲仙達が2人の元へ駆け寄る。

「銀蘭!大丈夫か」
「大丈夫・・・蓮花、傷の手当てを頼めぬか?」
「まったくもう、本当に無茶をするお方ですね。
「銀蘭様・・・痛い?大丈夫?」

そばに控えていた鳥が瞬く間に赤毛の娘に姿を変える。
なれた手つきで銀蘭の手当を始めた。
そのそばでは桜麗が心配そうに見つめている。
銀蘭は心配するなと言うように桜麗の頭をなでいていた。

「雅家、お前何をしたんだ?」
「と言われてもな、俺にも何がなんだか。」
「笛の音よ。あれは心に直接働きかけることで戦意を消失させる。
おそらくまだ何らかの効果があると見てよいじゃろう。
だが、そなたのおかげで助かった。礼を言う。」
「い、いやあ。俺こそ助けられたからな。」
「まあ、2人が無事でよかった。次はこの火をどうにかしなければならないか。」
「泰成、お前の術で消せないか?」

目の前には今なお燃え続ける内裏の姿がある。
木造建築である以上、火の手が回るのは早い。なすすべもなく燃え落ちていく。
泰成一人の力では火を完全に消すことができない。

「私と一緒にやりましょう。」
「お前は誰だ?見かけない顔だが。」

火事の中、泰成の前に現れたのは、烏帽子をつけた優しげな目の青年。
その傍らには蒼い髪の童子がいる。

「陰陽師の1人です。時間がありません。さあ、はやく。」
「わかった。オンバサラウンナマハッタ 京守りし龍神よ我が元へ現れよ!」
「オンバサラキワンデイソワカ 水の力を持って火を鎮めよ!」

2人の真言に従って、空が暗くなっていく。
瞬時に都を覆った雨雲は、燃え続ける内裏に雨をもたらす。
雨粒はだんだん大きくなっていき、土砂降りの雨となった。

「そなたのおかげで助かった。
俺1人ではあそこまで雨を降らせることが出来なかっただろう。
陰陽師とか言ったが、新入りか?見ない顔だが。」
「ながらく陰陽寮にはいなかったもので。
私の名は賀茂吉明(よしあき)、帝の命であなた方の手助けをすることになりました。
これからよろしくお願いします。」
「おお、それはわざわざすまぬな。ではこれから儂の屋敷へでも行って酒でも飲まぬか」
「それはいいですね。つまみを用意しておきましょう。」

手当が終わった銀蘭が吉明と目があったとき、彼が優しげに見つめるのに気づいた。
けれど、それが何を意味するかこのときはまだ気づかなかった。

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