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輪廻 平安編 ~さまよう娘~ お披露目

「あーーーーーー、そっちの人はだめえええええ!!!!」

細く美しい手を顔に当て、天の悲痛な叫びが辺りに広がる。
だが、もはや止めることは出来ない。
一度振り下ろされた爪は、銀蘭の身を引き裂こうと襲いかかる。
けれど、銀蘭は怯えることなくかすかな笑みを浮かべた。

「茨よ。彼の者を封じ込めよ。」

その声に答えるように、銀蘭の足下から茨が伸び始める。
わずかなうちに成長した茨は、虎に向かって行き瞬時にその動きを絡め取った。
そのわずかな硬直の中に、裁きをくださんとばかりに雷光が虎めがけて降り注ぐ。

ギャオーーーーーー!!!!

雷に打たれ、白い虎は地面へと倒れ伏す。しばらく動くことはないだろう。
それと同時に蓮花と桜麗が草むらから姿を見せる。

「銀蘭様、お怪我は?」
「大丈夫じゃ。妾に怪我はない。」
「こいつどうする?動かないけど。」
「放っておけ、しばらくは動けぬ。
それより、先にすませておかねばならないことがあるゆえ。」

視線の先には、天が立っていた。
その顔色は青く、先ほどの光景にショックを受けたように思える。
だが、よく見るとその表情には困惑が見て取れる。
皆は武器を構え、ゆっくりと彼女を囲み始める。

「そなた誰じゃ?」
「あ~あ、失敗しちゃった。もう、白君にはちゃんと言っておいたのに。」

その姿は、先ほどまでの幼い少女とは似てもにつかない。
しくじったにもかかわらず、彼女は諦めてはいない。
銀蘭の問いに答えることなく、次の目標・・・・泰成を捕らえた。
そして次の瞬間、彼女は一気に走り抜ける。

「泰成、気を付けろ!」

雲仙の声が響いたときには、彼女は泰成の前まで迫っていた。
その手には懐剣が握られ、迷うことなく泰成に向ける。

「オンバサラシャンテイソワカ 彼の者を縛せ!」

瞬時に現れた光の糸が天を戒める。
その手から懐剣を奪うと、印を組みまた唱えはじめた。

「雷帝の御身名を尊し 天上に属す神々を奉る
隠れし御身名をここに暴き 我が前のその正体を現せ 穏!」

泰成から生まれた光が辺りを包み込む。
虎の傷が癒えていき、茨が土に戻っていく。
天が光に包まれたかとおもうと、その姿が変わっていく。
長く続くと思われた時間。だがそれはあっけなく過ぎる。
そしてそこに現れたのは、天の面影を残す一人の天女であった。

「我が姿を暴くとは、なかなかやるようですね。
さすがはあの方の血につながる者と言うべきですか。」

立ち上がった白い虎がゆっくりと進み、天女のそばに寄りそう。
先ほどまでの凶暴性は消え、目には理性を浮かべている。
これはただの虎ではない。

「虎を制止したために関連性を疑わせたのは私の落ち度ですが、あなた方はその前から私を疑っていた。
よければ理由を聞かせていただけませんか?」
「簡単な事じゃ、村が襲われたというのに血の臭いもせぬ。
それにそなたは薄汚れているだけで、傷1つない。
農民の娘が手にすら傷を付けていないのはおかしいじゃろう。」
「ついでにもう一つ、あなたやあの虎からは実になじみ深いものを感じます。
俺にとっては実家でよく感じる気配でしてね。安倍氏独特の呪術と見受けます。」
「・・・・やっぱり無理があったのよ。」

先ほどまでの神々しい姿は消え、まるで年相応の表情を見せる。
そしてなにやら文句を言い始めた。

「いくら、青やすーたちがいないからって私たちに任せることないじゃない。
こういうのは苦手だって何度も言ったのに~。」
「天、諦めろ。どうせあの方には言っても無駄だ。」

彼女をいさめたのはそばに控えていたあの白い虎だった。
どうやら人語を解するようだ。

「私は絶対ばれるって何度も言ったのに~」
「おお、虎が喋った。蓮花や桜麗といい、近頃の獣は賢いな」
「あたしは龍。一緒にしないでよ!!」
「雲仙様、話題がそれていると思われます。」

すでに興味の対象がずれている雲仙を無視し、虎がこちらを向く。

「先ほどまで非礼をわびよう。我が名は白虎。十二神将に属するもの」
「私は天后。同じく十二神将で、主の命で泰成様にイタズラするように頼まれました。
よって全ての原因は主にあります。」
「・・・・イタズラ?俺にか?」

いくら腕の良い陰陽師であっても、十二神将を気軽に従える者がそこらにいるだろうか。
なおかつ、それは安倍家に関わりがあるという。
腕の良い人間がいると言っても、そこまでの能力を持つ者は安倍家の歴史の中でもたった一人。

「・・・・まさか。あのお方か?」
「そのまさかですよ。白虎、天后、ご苦労様でしたね。もう戻っても良いですよ」
「なんじゃ。やはりそなただったのか。」
「おお、前の宴会以来か。よくここがわかったな。」

現れたのは、賀茂吉明と名乗ったはずの青年。
しかし、今彼は白虎と天后の名を呼んだではないか。

「申し訳ありません。しくじりました」
「いいよ白虎。多分失敗すると思っていたから。彼らは充分に聡いしね。
それに、こういう事の不慣れな天后もいることだし。」
「ひどい~。だから青やすー達にやらせてよって言ったのに!」
「青龍や朱雀は別仕事。大体、退屈だから何か暇つぶししたいと言ったのはお前だろう。」
「セイメイ様の意地悪!」

一瞬、聞いてはならない名前を聞いたような気がする。
その名前には聞き覚えがある。いや、ありすぎる。
安倍家が陰陽道で有名になるきっかけを作った人物。
自分と血のつながる者。

「あの時聞き逃しておったな。そなた誰じゃ?
泰成と近い気を持つ者。そなたの名を聞こう」
「ええ、あなたには名乗っても良い。私は晴明・・・・安倍晴明。
12神将を従える都の番人ですよ。」
 

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