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たとえ、君がどんな罪を犯していようとも。
たとえ、君がどんな人生を送っていたとしても。
僕だけは、きっと君の味方でいるだろう。
今日もまた誰にも聞こえない、君の声が聞こえる。
叫び
「‥‥ディオ!カディオってば!!」
「あ‥‥ミリュウ‥‥か?」
揺さぶって名前を呼び続けて、僕はようやくカディオを起こすことが出来た。
すでに外は薄暗い。当たり前だ。もう床につく時間なんだから。
ようやく眠りについた頃。あの“声”が聞こえた。
そして僕は当たり前のようにカディオの部屋に足を踏み入れた。
自分を守るように丸くなって眠るカディオ。
けれどその顔に安らぎはなく、ただ苦しみの表情を浮かべる。
声にならない声を発しようとしたとき、僕はカディオの名を呼んだ。
「起こして悪かった。」
「ううん、気にしないで良いよ。また例の夢?
このところずっとだよね。少しはさ、良い夢見れたらいいのに。
メリアさんにでも相談してみようか?」
「ちょっとまて、なんで良い夢見るのに暗竜術士のところに行く?」
「だってさ、暗竜術なら夢とかも操れそうじゃない。暗闇を司るんだろう?」
「お前、暗竜術をなんだと思ってる。怒られるぞ。」
「怒られるのは勘弁してほしいなあ。
この間、術を失敗してメリアさん家の屋根ぶちぬいちゃったばかりだし。
あの時のメリアさんは怖かった。おまけにウィルフさんもいたから二人してお説教だよ。」
「・・・・いや、それはお前が悪い。」
「正座してお説教半日もだよ?お腹は空くし、足はしびれるし、最悪だよ。
・・・・あれ?なんの話してたっけ?」
「夢の話だろ。自分で言い出しておいて忘れるなよ。」
「あはは。失敗失敗。でもさあ、言ってみても良いんじゃない?
誰かに相談するのも悪くないかも。だってこっちに来てからずっと見続けてるんだろう?」
「いや、いい。きっと無駄だ。
それに、俺はきっとこの悪夢を見続けていないとだめだと思うから。」
「まったく、カディオは言い出したら聞かないね。
つらいことはつらいって言って良いんだよ。」
「・・・・そうだな。でも・・・・ごめん。」
「謝るくらいなら最初からやらないで。まったく、頑固者なんだから。」
恐らく言っても無駄だろう。ここ数日何度とく言い争ってその度に諦めた。
本当はすごく嫌だ。僕の知らないところで苦しむカディオを見るのは。
そして“どんな”夢を“どうして”そんな夢を見るのかカディオは話してくれない。
呆れられたって良い。怒られたって良い。
カディオが苦しむ理由を知りたかったけど、そのたびに苦しそうで、泣きそうで。
実際にカディオには言っていないけど、泣いていたのを見たことがある。
竜術士になることを正式に決めたあの日
(といっても今だ長老たちは反対していて、会議で論争になっているらしい。
おかげでカディオは術を覚えることも出来やしない。)
その日。みんなにおやすみなさいの挨拶をしてベッドに入った。
しばらくして眠れるはずなのになぜかちっとも眠れなくて。
そして胸騒ぎがした。
ますます眠れなくなったとき、あの“声”が聞こえた。
その声はきっと大きな物ではなかっただろう。
だって家の誰も気づかなかったのだから。
けれど、僕には確かにカディオの声が聞こえたんだ。
カディオはベッドから身を起こしていた。
どこを見るともいわないうつろな目で、月の光のような銀色の瞳。
表情を全く変えることもなく、ただ声も出さずに泣いていた。
カディオの瞳はヘイゼル色。どうして銀色に見えたのかはわからない。
けれど、そのときの僕はそのことを疑問にも思わず。ただ、目の前の光景に唖然とした。
あまりにも綺麗で美しくて。そして・・・・・・・・哀しかった。
「前に同じように怒られたことがあったよ。」
「え?ごめん、何が?」
「頑固者で融通が利かない。もっと楽に生きなさいって何度も怒られたよ。
言うことを聞かない俺が悪いんだけどな。あいつは俺のことを思っていってくれたのに。」
「・・・・それ、カディオの大切な人?」
「だろうなあ。家族で友人で、ずっと一緒にいられると思ってた。
みんなと先生と俺で。たまに先生の友達がやってきてみんなでお茶をして。
・・・・楽しかった。」
「過去形なんだね・・・・。」
「だって・・・・先生は俺が殺してしまったから。」
「カディオ?」
「俺がいたから先生は死んだ。俺を逃がすために、生かすために自分の命を引き替えた。
こんな血塗れの俺なんかを助けなくたって・・・・先生のほうがずっと生きているべきだったのに。なんで俺を・・・・。」
バチン。
静かな部屋に悲痛な音が広がっていく。
赤くなったカディオの頬はきっと痛いだろう。けれど僕の手もまた痛い。
なぜだろう。殴った手よりも心のほうが痛いのは。
「そんなことを言うな。」
「・・・・‥ミリュウ?」
「少なくとも僕はカディオにあえてよかったと思ってる。
今までカディオが何をやってきたかは知らないけれど、多分真っ当なことではなかったと思う。でも、僕は例えカディオが罪を犯していたとしてもかまわない。
「何で‥なんでそこまで。」
「友達だから。始めて出来た友達で、大事な人だから。
だからカディオ、そんなこと言わないで。自分を否定しないでよ。」
「・・・・・・・・夢を見るんだ。」
カディオの表情はうつむいていてわからない。
けれど声が震えていた。ゆっくりとその手を握る。とても冷たかった。
「先生が真剣な眼差しで俺を呼ぶんだ。逃げるよって。何がなんだかわからなかった。
絶対逃げれないってわかってたのに。でも・・・・大丈夫だって言うんだ。
全然大丈夫じゃなかった!あいつらがやってきて・・・・。
いくらずっと面倒を見てきたからって・・・・家族同然だったからって。
俺を庇って死ぬ・・・・なんて。」
ああ、それだったんだね。日ごと君を苦しめる夢の正体。
それはなんて悲しい夢なんだろう。
ほら、その証拠に君は気づいていないだろうけど、その瞳に大粒の涙がこぼれている。
ずっとずっと苦しんできたんだね。
「その人、カディオのことが大好きだったんだね。
カディオもその人のことが大好きなんだね。」
ポフっとカディオの頭を抱え込む。そして優しく言ってみる。
多分、カディオも本当はわかっている。先生がカディオを助けた理由を。
短い付き合いだけどいろいろなことを考えれるって知ってるし。
ただ、それを認めたくなかっただけ。自分がその死の原因だと知っているから。
「大丈夫。その人はカディオのことを守りたかっただけ。
君が何よりも大事だったから、君を助けたんだと思う。
だからカディオ、すぐには無理かも知れないけれど自分を許してあげなよ。
でないと君を助けた先生がかわいそうだよ?
自分のせいでカディオがずっと苦しんでいるんだから。」
「‥せん・・・・せいは悪くない・・・・俺が・・・・。」
「うん、だからさ。今でなくて良いよ。いつかでいいから。
それまでは僕が君のことを許してあげる。」
「ミリュウ・・・・。」
「苦しんでいることもつらいと思っていることも知ってる。
だって君はいつも『助けて』と叫んでいたから。」
「え・・・・?俺そんな事・・・・。」
「うん、声に出しては言っていない。
でも僕にはずっと聞こえないはずの叫びが聞こえていたから。」
「なんだよ、それ。」
「本当だって。だからね、カディオ。君の声は僕に届くから遠慮しないで言ってね。
大丈夫、僕はずっとカディオのそばにいるから。」
「お前ってやつは・・・・・・・・ありがとう。」
悪夢は消えずにつきまとう。けれど、夢はただの夢。
いつでも呼んでほしい。だって助けを呼ぶ君の声が僕には聞こえるのだから。
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