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鞍馬山の奥深くには誰も知らない屋敷がある。
誰もその存在を知らず、近づく者を寄せ付けない。
それはこの屋敷が人に認識ではないため。
しかし、人の目には見えないはずの屋敷は、今こうして彼らの前にそびえ立っていた。
「そこらの貴族より立派な屋敷だな。こんな山奥にどうやって建てたんだ?
この山はよく来るが、こんな屋敷があるとは知らなかった。」
「無理もありません。結界がはられているので人間たちには見えませんしね。
仮にも土地神の屋敷ですから、相応の策はとっています。
といっても、一年のうち三月ほどいればいいほうですがね。」
「なぜじゃ?この屋敷が住処なのであろう?」
「住処の1つですよ。他に三個所ほど屋敷があります。
あの人、気分次第で住み替えるんですよ。三月したら飽きたと言って余所へいくんです。」
「三個所って・・・・随分多いですね。」
「昔から気まぐれな人です。長生きしているだけ手に負えませんし。
いいですか?決してあの人を侮っちゃいけませんよ。
冗談で言った言葉を本気で実行するような、とてつもなく厄介な人・・・・・あ、イタっ!?」
晴明が話を続けようとしたとき、どこからか何かが飛んできた。
それは先頭にいた晴明の頭に当たった後、銀蘭の手に落ちてくる。
葛の絵が描かれた女物の扇子。
もろに角が当たった晴明は頭を抱えてうずくまっている。
「葛の葉とやらに聞こえていたようじゃな。」
「口には気をつけたよさそうだ。」
雲仙の言葉にもっともだと頷きながら、ふと女性の笑い声が聞こえた。
それは自分のすぐ後ろから聞こえてくる。
(誰かいる・・・・!)
「そんなに警戒しなくても良いのよ。銀蘭。
お馬鹿のアキは放っておいて、私とおしゃべりでもしない?」
そこにいたのは金髪に金の瞳をした女性。
赤の唐衣を身にまとい、長い髪を惜しげもなく床に垂らしている。
けれど、人ではないその証拠にその頭には狐の耳が見える。
何よりこの人から感じられる気は、自分と同じ物。
自分に悲しみしかもたらさなかったあいつらと同じ妖孤。
(この人が葛の葉。あいつらと同じ妖孤。同じだったら・・・・キライ)
人間界で初めて出会った妖狐に対し、銀蘭はとまどいを隠せなかった。
そんな主の姿を見て、蓮花と桜麗が動いた。
蓮花はその腕で主に抱きついて、そっと自分の後ろに追いやる。
それを確認し、桜麗は主の前に進み出る。
銀蘭の、あんなにも凍り付いた表情を見たことがない。まるで人形のようだ。
主のそんな顔も、蓮花の険しい表情も知らない。
新参者の自分には、わからないことばかりだけど自分に出来ることはたった1つ。
(あたしは蔵馬様を守るだけ。土地神だろうがそんなのは知らない。
蔵馬様を傷つけようとするなら、あたしは許さない!)
二守が見せた殺気に、雲仙たちは手を出すことが出来なかった。
だが、それはすぐに破られた。
「止しなさい。私はあなた方の可愛い主を傷つけるつもりはないからね。
銀蘭、私が怖いかしら?でもね、私はあなたの敵にはならない。
(・・・・あいつらとは違うの?)
今なお警戒を解こうとしない蓮花に、大丈夫だと手をほどく。
蓮花はまだ納得がいっていないようだが、それに従った。
おそるおそる歩み寄り、葛の葉の前に立つ。
「そなたが葛の葉?」
「ええ、鞍馬山の土地神であり、そこにいる安倍晴明の母よ。
はじめまして、蔵馬。ああ、でも銀蘭と呼んだ方がいいかしら。」
「・・・・妾の名を知っておるのだな。」
「ええ、知っているわ。でもね、私はあなたのことが気に入っているの。
だから私と仲良くしてくれない?」
(・・・・・仲良く・・・・・?)
自分の名を知っている以上、忌むべき者だと言うことも知っているだろう。
今朝見た夢の半分は事実。一族の者は自分の存在を望まなかった。
その存在を知って殺そうとした。生かしておくべきではなかったから。
自分の存在を望んでくれたのは、あの優しい人たち・・・・家族と兄様だけ。
けれど、それを知っていて、自分に優しい表情を見せる人を家族以外に知らない。
いや、そうでもない。ごくわずかな人たちは優しく接してくれた。
けれど、妖狐の一族でその顔を見せてくれたのはあの人達だけ。
それなのに、自分の目の前にいるこの人は姉様達と同じ優しい顔をしている。
「人の世界では銀蘭。けれど、葛の葉には蔵馬と呼んでほしい。
そなたにならかまわぬ。」
「あら、それは嬉しいわね。さあ、こちらにいらっしゃい。
おいしいお茶を入れてあげる。」
「母上が入れるんではなくて、式神が入れるんでしょう。
最近横着する癖がつきましたからね。それにお茶入れるの下手ですし。」
「うるさいわよ、アキ。まったくかわいげのない息子だこと。」
「ところで葛の葉殿、質問があるのだが。」
「何かしら?」
「なぜ晴明殿がアキなんだ?」
すぐに蔵馬を連れて行こうとする足を止め、当然のように答えた。
「晴明の読み方を変えるとハルアキ。だからアキよ。
アキ君って呼んであげましょうか?ねー、アキ君。」
「止めてください!アキだっていやなんですから。」
その晴明はとてつもなくイヤそうな顔をしている。
そばで式神たちがため息をついているところを見ると、この親子げんかは日常茶飯事のようだ。
しかも、見たところ葛の葉の一方的なちょっかいが原因。
「可愛いのにね。あなたもそう思わない?」
「わ、妾に聞かれても・・・・。」
抱きついてくる葛の葉にとまどいを隠せない。
家族以外にその行為をしてくる者は居ないため、葛の葉にどう対処して良いかわからない。
頼りの二守も止めるべきかと悩んでいるようだった。
「さ~てと、挨拶もすんだことだし、皆さんいらっしゃいな。
おいしいつまみとお酒を用意しているわ。」
「おお、それはありがたない。」
「葛の葉様、我々は遊びに来たわけでは・・・・。」
「かたいこと言わない。泰成はもうちょっと余裕って物を見せなさい!
たかがお酒の10本や20本で泣き言を言うのかしら?」
「いや、それは充分だと思うぞ。」
「無駄ですよ、母上の基準は自分です。
ザルを通り越してる人ですから、全員酔いつぶれるまで帰さないつもりでしょう。」
すっかり宴会モードの周囲を余所に、自身の長年の経験を生かして泰成は一人戦っていた。
さすが安倍家の人間であるというか、こういう人間の扱いにはなれている。
しかし、話の後に酒を飲むと言うことになったのは、年長者には勝てないと言う見本でもある。
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