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―君と約束をしよう。
何を・・・・約束するの?
今度生まれたときはボクは必ず君を守ると。
・・・・・ミラン、言ったでしょう。私はあなたのこと友達としか・・・・
それでもかまわない。カルメラ、ボクのこの想いは絶対に変わらない。
君はボクの大切な人だ。
この世でたった一人の、愛しい人だ。
・・・・ミラン。
だから、この想いを受け取ってくれなくても良い。
今はただ、君の友人でいさせてほしい。
それだけでいいから。
・・・・あ、あれ?ねえカルメラ。何で泣くのってゆうか頼むから泣かないでったら!
ゴメン・・・・ゴメンなさい。ごめんなさい、ミラン・・・・。
泣かないで、カルメラ。わかってる。全部わかってるから・・・・。
約束する。“今度”じゃなくても、“今”も君を守ると。
だから・・・・泣かないで。
遙か昔の約束。人と竜が住まう楽園でひっそりと暮らしていた娘。
強い力を持つが故に、ただ他の人より出来ることが多かった。
望みはただ一つ。家族を持つこと。
けれど、彼女の力がそれを邪魔する。
「もう一度言ってくれないかなあ。」
「えと・・・・あのね。・・・・もう来れなくなったの・・・・ゴメンね。」
「来れなくなった理由は術ほとんど覚えて、教わることがないから?」
「うん・・・・。」
怖い。ねえ、ミラン。その微笑みはいつものあなただけど、なんで目が笑っていないの。
その証拠にさっきからあなたの子竜たちは怖がって近寄ってこないんだけど。
彼女―竜術士見習いカルメラは、目の前に立つ友人―風竜術士ミランの顔を伺う。
「カルメラ、一つ聞くけどさ。」
「・・・・なに?」
「今度は誰に何言われたの?まあ予想はつくけどね。どうせあまり子竜と親しくなるなとか、年頃の娘が若い男の家に出入りするなとか。―ボクと親しくなるなとか?」
その言葉に顔色を変える。この友人はどこかで見ていたとでも言うのだろうか。
なぜ一字一句間違えずに言えるのだろう。
「そんなことだろうと思った。ボクの方にもうるさく言ってるのいるからね。
カルメラ、そんなの気にしなくて良いよ。子竜たちも君になついてる。
確かに術覚えてコントロールも上手いけど、子竜預かれるまで訓練は続けておいた方がいいし。」
「預かる・・・・日、来るのかしら。」
「何言ってるのさ。子守も術も家事も一番上手いの君だと思うよ。
長老達もうるさいよね。本来なら、君だって『竜王の竜術士』になれるのに。」
「私なんて・・・・フェルリがいるから必要ないわ。」
「君の方がフェルリより術上手いのに?跡継ぎ生まれるからって君のこと無視して、あげくに見習いのままほったらかしてさ、竜王は2人もいらないって勝手だよ。」
「ミラン・・・・。」
「馬鹿だよね。本当に。あんな人たち放っておいて、風竜の子預からない?
大丈夫、いざとなったらボクに頼まれたって言えばいいから。」
「ミラン!それはだめ。絶対にダメ!!」
何を言い出すのだろう。いくら風竜族長の風竜術士であった人といえども、許されないことがあるというのに。
「ボクは本気だよ。カルメラ、見習いといえど君は竜術士。子竜を預かることは義務なんだよ。竜の力を借りて竜術を行う。その代わり、僕らは竜を育てる。始まりの竜術士からずっと続く約束を忘れたのかい?」
「・・・・覚えているわ。でも、私は別。良いの・・・・預かれなくても良い。
私が原因となって争いの種が生まれるなら、私は身を引くわ。」
「カルメラ!」
「私はもう・・・・争いは嫌なの。ゴメンね、ミラン。
・・・・シルフィー達にお茶会呼ばれているからこれで失礼するわ。またね。」
返事も聞かずに家から飛び出す。ああ、悪いことをしてしまった。
子竜たちと遊ぶと約束していたというのに。
長老達の言うとおり、もう会わない方が良いかもしれない。
なんて身勝手な心。あの時確かにダグを愛していたはずなのに。
少しずつミランに惹かれていく自分がいる。
そんなことは許されない。あの人を愛してはいけない。
ただの友人。そう、それだけでいい。それならそばにいられる。
妻に・・・・母になれない私にはもうそれしかないのだから。
「師匠。カルメラさん、帰っちゃったの?」
「うん、急用があるんだって。また今度遊んでもらいな。
そうだ、今度はこっちから行こうか。いつも来てもらってるしね。」
「本当!?」
「うん、その代わりカルメラにはナイショにね。驚かせようか。」
「はーい。」
「本当、嘘が下手なんだから。」
「え?師匠、何か言った?」
「なんでもないよ。」
なんでわかってくれないかな。
ボクの望みは跡継ぎを生んでくれる女性なんかじゃない。
大切な君だから、そばにいてほしいのに。
立場とか、竜術士とか、そんなの関係ないのに。
・・・・ボクでは君を守れないのだろうか。
繰り返される負の連鎖。この楽園とて例外ではない。
なぜ、命は同じ過ちを繰り返すのだろう。
巡って回り、そしてまた悲劇が生まれる。
「カルメラ!ねえ、目を開けて、しっかりしてよ!!」
「動かすな!!早く医者に連れて行くんだ!」
「で、でも・・・・シャルド。血が・・・・血が止まらないの。
ドリー、ねえどうにかできないの!?」
「・・・・私の力じゃ、この血は止められない。」
「おい、アクア。手をかせ。やつらここをかぎつけやがった。」
「しょうがないですね。・・・・ドリー、シルフィー、カルメラを頼みます。」
「我らがなすべきはただ一つ。コーセルテルに害なす者を退けること。
・・・・シャルド、気を確かに持て。」
「・・・・カルメラ、行ってくる。」
「・・・・いって・・・・らっしゃい・・・・私の優しい闇。ゴメンね・・・・。」
少しずつ身体が冷えていくのがわかる。
寒い―ここは、なんて寒いんだろう。
ああ、まだやらなくてはいけないことがまだたくさんあったのに。
これは罰なのだろうか。
無関係の友人達を巻き込んで戦いへ赴いた私への。
罪人の分際であの人を愛してしまった愚かな私への。
神よ。私はもうあなたに祈らない。
祈りなどなんの役にも立たず、あなたはいつも愚かな私をあざ笑っているのだから。
きっと、これもまたあなたの気まぐれな運命なのでしょうね。
ミラン・・・・ミラン。ゴメンね。
もしも・・・・・・・もしも、またあなたと出会えたら。
そのときはきっと・・・・・きっと・・・・・。
ああ、声が聞こえる。ここにはいないはずのあの人の。
優しく明るい。私にとって太陽を思わせるあの人の・・・・。
「カルメラアアアアアアアア!!!!」
そして悲劇は終わりを迎える。
止まることのない負の連鎖。楽園の中で結ばれることのなかった一組の男女。
ありふれた悲劇は歴史の中に葬り去られ、今はもう誰も知ることがない。
悲劇はまた繰り返すのだろうか。
神よ。この哀れな2人にどうか祝福を。
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