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平安編 ~さまよう娘~ 捕獲


「泰成、そなたと同じ名字だが、縁者か?」
「縁者も何も・・・・雲仙殿、本気で言っているんですか?
陰陽道で名をはせた安倍家のかつての当主にして、最強の陰陽師。
今は亡き安倍晴明ですよ。当然、私以上に力のある陰陽師です。
すでに死んでいるはずの人間ですが、彼なら現世にとどまっていてもおかしくない。」
「おお!そういえば前に聞いたことがあるな。」
「その名なら聞いたことがある。狐と人の混血児。闇を退ける者。
さすがに泰成と違って狐の方の血が超さそうじゃな。」

ただの人間ではないだろうと思っていた。
まさか死者とは思わなかったが、本人がそう言うのならば、信じるしかない。

「あんまり驚いてくれませんね。私としてはもう少し衝撃を受けて欲しかったのですが。」
「笑わせてくれる。そなたは初めから怪しかったのじゃよ。
そなたの人であって人ではない血が妾に教えてくれたわ。
それにツメが甘い。どうせ式神たちに狙わせるのなら、もう少しうまくやればよかったのじゃ。
あの程度では、妾が相手をするまでもない。」

手厳しい銀蘭の指摘に、困ったような表情を浮かべ頭をかきはじめた。
正直、ここまで簡単にばれるとは思わなかった。
自分が予想していたよりも、彼女たちは充分強い。

「参りましたね。降参です。
少しばかり私の子孫と遊んでみたかったんですよ。許してもらえますか?」
「そう言うのは妾ではなく、こっちに聞くべきじゃ。」
「え!?銀蘭、私は別に・・・・突拍子もない身内にはなれていますので。」
「なんじゃつまらぬ。大体、晴明と言ったか?
そんなに強い陰陽師というのなら、もう少し趣向を懲らすぐらいはするべきじゃ。これではつまらぬ」
「今度はそうしてみますよ。あなたもなかなか手厳しい人だ。」
「ところで、晴明殿。あなたは何の用なんだ?
まさかイタズラをしに来ただけではあるまい。」

空気が変わった。
それまでにこやかにしていた雲仙からは殺気めいた気が感じられる。
銀蘭が一歩下がって扇を手にし、泰成は札を取り出す。
どこかで鍔が鳴る音がした。

「やめましょう。私はただ話を聞いてもらいたいだけです。
ここで争うのは得策ではないし、それに私はあなた達の味方ですよ。」
「それを誰が信じる?信じる術はどこにもない。
そなたはどうやって信じてもらうつもりじゃ?」
「信じてもらう術はありません。
それでも私は言うでしょう。あなた達の味方だと。
少なくとも・・・・銀蘭、あなたの敵にはなりませんよ。」

一歩彼が進み、銀蘭の耳元に囁いた。

(あなたの・・・・銀の破壊者の敵にはなりませんよ。)

「!?そなた・・・・一体何を知っている!」
「今はまだ言えません。それを語るべきなのは私ではない。
ついてきて頂けますね。」
「よかろう。話を聞こう。おぬしたちもそれでいいな。」

有無を言わせない雲仙の声に、蓮花と桜麗が視線を向けた。
それに大丈夫と答えつつ、口を開く。

「そなたと契約をした以上、断る理由などない。妾はそれに従おう。」
「すまぬな、銀蘭。」
「謝るぐらいなら最初からするでない。まったく困った奴じゃ。」
「銀蘭は厳しいなあ・・・・・。」
「仲がいいのはいいことですね。さあこちらです。案内しましょう。
この山の主、葛の葉があなた方を待っています。」


「退屈だ。やっぱりあいつらと行くべきだったか。」

 いかにも暇そうな男が、木の上でのんきにアクビをした。
そこは人通りの多い、宮廷の庭の一角。けれど男に注意を払う者は誰もいない。
蛇晃は辺りを見回すと興味なさげに、木にもたれかかる。

(暇だな。娘さんたちのとこにでも顔出すか。)

元々、蛇晃が残ったのは桜麗に乗りたくないと言うだけのこと。
警備はついでのことだから、やる気はあまりないし、それに性に合わない。
自分の役目は初撃入れること。先手を打ち、奇襲をかける。
獲物に忍び寄り、攻撃を入れるのは得意だが、敵を待ち続ける警備は苦手だった。
敵に近寄り、一気に攻撃することこそが、自分の得意技だ。

「絶対に俺の柄じゃあないってのによ。
・・・・にしてもあのおチビ、ちゃんとやってんのかね。」

主に対して一生懸命なのは良いが、やっていることがおおざっぱなあの娘を思い出す。
そして、すぐにそれをうち消した。

「俺は幼女趣味じゃねえ・・・・」

そう、自分の好みはあくまで細身のバランスのとれた女性。
あんなチビは好みではないし、それ以前に子どもに手を出す趣味はない。
しかし、蛇晃は知らなかった。
桜麗の見た目は彼女が好んで用いているだけであって、精霊であった彼女の年齢は蛇香とほとんど変わらないと言うことを。、
この事実を蛇晃が知るのはこの数百年後のことである。

「しょうがねえ。いったん帝のところでも顔出すか」

仕事の時間はとうに過ぎた。彼なら自分の相手をしてくれるはずだ。
うまくいけばうまい酒も出してくれるだろう。
そう思い、木の下へと降り立った。

「見ツケタ」

降り立った瞬間、異様な声が聞こえた。低くかすれた声が。
そして気づく、人の気配がないことを。

「誰だ、てめえ。人間じゃあねえな。」

現れたのは、白い装束を身にまとい髪をみずらに結い上げ、銀色に輝く剣を手に握った男。
その瞳は深い闇の底を思わせた。

「我ガ主ノ命。一緒ニキテモラウ。」
「上等じゃねえか。この蛇晃様にケンカを売るなんてな!」

蛇晃の手から現れた白銀の針が、瞬時に襲いかかった。
無数に現れた針をよける術はなく、それは突き刺さる。
男は身動きがとれずに地面に倒れ伏した。

「ざっとこんなもんよ。さあて、お前の主とやらを教えてもらおうか。」
「甘イナ。」

後ろから聞こえたその声の正体をとらえようと振り向くが、それを見ることはかなわなかった。
遠ざかる意識の中、男の声を聞いた。
倒れた男とそっくりな姿をした男が、何かの指示をしていた。

「コノ男ヲ伊耶那美神サマノ所ヘ連レテ行ケ。」

それは古の偉大な女神の名。
 

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