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『キライ。そしてスキ。』


      キライキライキライ。人間なんか大きらい。
 私の海を勝手に汚すし、戦争を起こして私の大好きな場所を血で汚す。
 どうして人は私たちを傷つけるの?
 どうして私たちのことを無視するの?
 どうして私たちの声は届かないの?


「くだらん。そんな分かり切ったことを聞くな。」
「シャルドは冷たいです。答えてくれたって良いじゃないですか。」
「・・・・価値の問題だ。」
「価値?」
「人間にとって、俺たち精霊は必要不可欠なものではなく、いてもいなくてもいいものだからだ。」

 シャルド、結局は答えてくれるのね。
けれど、それが事実だとしたら私たちの存在はなんなの?

「あはは、アクアは難しいこと考えるねえ。う~ん、とってもとっても難しい!」
「そんなに難しいこと聞いたの・・・・?」
「ううん、難しくないよ。だって人同士だって同じこと言ったりするからね。
個人どうしならともかく、国同士でその疑問言うと下手したら戦争しちゃうかも知れないし。
人間の世界は複雑だよ~」
「シルフィーはどう思うの?」
「私たちを傷つける理由?簡単だよ。
仲良くしたくても結果としてそうなっちゃうからだよ~。」

 仲良くしたい?そんなこと思う人っているの?
 少なくとも私は知らない。


「アクアはまだ年若いから知らないだろうけれど、昔はねそうでもなかったのよ。」
「そうなの?ドリー。」
「そうよ。可愛い“海の水”。
人がまだ子どもだった頃、人は私たちと自由に会話し、共に生きていたのよ。
でも今はもう無理でしょうね。」
「どうして?」
「子どもの頃の友人は、もういないのよ。」

 小さい頃に仲良くしていても、大人になったら離れてしまう。
 そしてそんなことがあったことすらも忘れてしまう。
 それはなんて悲しい思い出。


「ドリーはそんなことを言ったのか。まあ大体は事実だな。
生憎昔と違って、私たちを認識できる者のほうが少ない。
精霊と縁の深いイルベックの地方でもそうなのだから、今私たちを見ることが出来るのは子どもか、個人の資質だな。」
「それ全然ダメです。」
「仕方ないというしかないな。リカルドやカディオのような者のほうが少ない。
アクア、これでだけは言っておく。彼らに出会えた私たちは運がよかったに過ぎない。
だから、他の人間たちを一緒に考えてはダメだ。」
「アリオン・・・・」
「人の戦が幼霊たちを殺していく。精霊術によって消滅する精霊が増えていく。
嘆かわしいことだな、今の世の中は。」

 寂しいね。とっても。
 私たちにはどうしようもないことばかり。


「そうでもねえだろ。俺らに出来ることは十分ある!」

 途方に暮れて訪れてみた友はいとも簡単にそう言った。
 そういえば前にカディオが言っていた。
 “イリトのお気楽さはある意味すごい。”うん、私も同感だよ。
 希望も未来もないのにどうしてそんなことが言えるの?

「だってさ、俺らはカディオとかリカルドに会えたろ。
んで、少ないけれど正しい精霊術を知っている奴にあえただろう?」
「うん、会えたよ。」
「そんで今は竜術士とかもまだいるだろ?
あいつらだって契約出来るやつらだと思うんだ。
それに戦争とかを止めさせたり、自然を守ろうとしてるやつらだっている。まだまだ少ないけどな。」
「うん。いたね。」
「だからさ、アクア。そう簡単に見捨てることなんかないさ。
まだまだ人間捨てたもんじゃないぞ!」

 イリト、あなたのいつも前を向く姿勢が私に勇気を与えてくれる。
 また励ましてくれたね。
 そう、きっとあなたの言うとおり。
 未来は一つじゃない。


「なんともイリトらしいというか。おもしろい意見ですね。」
「うん、私もそう思う。」
「それでアクア、最後に私のところに来た理由はなんですか?」
「あのね。えっとね。あの・・・・」」
「・・・・アクア。ええ、待っていてあげますから言いたいことはちゃんと言いましょう。」
「あのねえ、ウィル。ウィルにとって人間って何?」
「これはまた面白いことを聞きますね。」
「うん、みんなに聞くのを忘れたからウィルに聞くの。」
「そうですねえ‥‥隣人ですかね。」
「隣人?」
「ええ、すぐそばに住んでいる人。誰が隣に住むかでずいぶん違いますけどねえ。
今まで私たちの最も親しい隣人はカディオやリカルドでした。
でも今度からは私たちは人を隣人と考えなければいけない。
個人の中の人を見るか。全体としての人を見るか。
それはあなたしだいですよ、アクア。」

 ウィルの言葉はいつも難しいね。
 でも‥‥私はどうしたいんだろう。
 前向きに考えられるイリトやなりゆきに任せるシルフィーとも違ったこと。
 私はどうしたらいいのかわからない。
 

「それはそうさ。誰かにどう言われたって結局決めるのは自分なんだから。
意見なんて十人十色。ここで俺に聞いてそれに従うって言うなら、俺は何も言わんぞ。」
『・・・・わかってるもん。ただちょっとカディオの意見を聞いてみたかっただけ。』
「だったらわざわざ水鏡で通信しなくても手紙で良いだろうに。
夜中にいきなり連絡するから驚いたぞ。」
『昼間だったら子竜ちゃんたち起きてると思って。・・・・ごめんね。突然で。』
「いいさ。お前が悩んでいるって言うのはシャルドから聞いてたし。」
『シャル君から?』
「その呼び方するとあいつが怒るぞ。
そのうちアクアが意見聞きに行くかも知れないってな。その通りになったが。」
『シャル君、一番素っ気なかったのに。やっぱり私たちのことわかってるんだね。
多分、下手にカディオに連絡取ったら迷惑になると思ったから伝えたと思うんだけど。』
「お前は甘えるすぎるだけでドリーたちほど迷惑にはならないんだろうがなあ・・・・」
『ドリーも実験しないときはいい人なんだけどね。
多分ね、カディオの立場気遣ったんだと思う。
竜の長老たち、私たちがカディオと連絡取ることよく思っていないから。』
「お前らが気にすることはないんだぞ?」
『それでも嫌です。‥‥でね。カディオ。私、どうしたらいいのかな?』
「結局は聞くのか?」
『・・・・これ以上私が考えると頭グルグルになっちゃう。』
「それは困ったなあ。そうだな・・・・俺の時と同じで良いと思うぞ。」
『カディオの時と?』
「俺がお前と初めてであったとき、最初は俺のこと怖がって逃げただろう。
でもちょっとずつ仲良くなって、契約した。それと一緒だよ。
すぐには仲良くなれないんだ。少しずつ仲良くなれればいいし、中にはどうしても仲良くなれない奴もいるからな。」
『つまり・・・・自分で決めるしかないっていうこと?』
「ああ、そういうものだろ?それに付き合ってみないとわからないことは多いしな。
・・・・それにしても変わったな。」
『何が?』
「昔は人と言うだけで逃げ回ったお前が、人間のことを気にかけるなんて思わなかった。」
『・・・・‥それはきっと、カディオ。あなたのおかげだよ。
あなたが“海の水”の名をくれたとき、私の世界は広がった。
カディオ、正直私は人間はキライだけど、あなたのことは大好き。』
「俺もお前のことが好きだよ。アクア、いや“アクアマリン”。」

 喜びも悲しみも楽しさも苦しさも分かち合った人。
 人間はキライ、でもスキの側にはあなたがいる。
 スキとキライの天秤を持ちながら、今日もまた海を漂う。

 

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