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さあ、今日の授業を始めようか。
今日の授業は共鳴術についてだよ。
共鳴術?初めて聞きました。
そうだろうね。私も教えるのは君が初めてだよ。
竜に力を借りるのが竜術。魔獣に力を借りるのが魔獣術。
そして、精霊の力を借りるのが精霊術。
人は単独で術を起こすことは出来ない。
だが、誰かにお願いすることで力を借りることが出来る。
だが、私たちはもっと別なものに力を借りることが出来るんだよ。
…別なものですか?
そう。それはこの世界そのもの。
イメージしてごらん。世界と一体化になるんだ。
力を借りるんじゃない。奪うんじゃない。
ただ、心を世界と通じ合わせてごらん。
そうすれば、きっと世界は答えてくれる。
…そんなたいそうな物、俺に出来るんでしょうか。
もちろんだよ。君なら私以上の術を身につけることが出来るだろう。
なんと言っても、君は世界に愛されているからね。
だけど、これだけは覚えておくんだよ。
精霊術だろうと、共鳴術だろうと私たちは一人では何も出来ないんだ。
お願いすること、協力してもらう事。
そして、彼らを想う心が術となるんだ。
彼らは私たちの友人。だから、無茶をさせてはいけないよ。
それは懐かしい思い出。
父とも慕う人との優しい記憶。
今はもういない人。
師は命の流れに還り、家族同然の友人たちは行くべき場所へ帰った。
…俺はなぜここにいるだろう。
なくしてしまった家族。二度となくしたくないもの。
そして俺が守るべきものたち。
「何考えてるんだか…」
そうつぶやいて手元に置いてあった本を閉じる。
それは恩師の残した唯一の形見。日記帳だった。
第2守護精霊ドリーが国を逃げ出すときにこっそりと持ち出し、そして自分竜術士となることが決まった日に届けてきた物。
『これはあなたが持っている方が良いと思う。』
そこに書かれていたのは実にたわいのない内容だった。
日々の暮らしのこと、戯れてくる精霊たちとのやりとり、息子とも思う弟子との暮らしについて。
時に術士たちの精霊への仕打ちを憤り、戦火を拡大し利益を得ようとする上司や同僚たちを止められないことを何より悔やみ、そして―――弟子の心を救えない自分を呪っていた。
【私には結局何も出来ない。彼を見いだしたのは私だというのに。
結局私には何も出来ないのだろうか。】
日記はそこで終わっていた。
「…そんなことはないですよ。先生。」
読み返したページを閉じて、その本を見つけられないように術によって隠す。
そして世界に望む。
『見えることのないように』
それは術とすら言えない言葉だった。
かつて習った共鳴術。言葉そのものが持つ力。
今はもう自分一人しか使う者がない術。
竜術士になるときに、竜術以外は使ってはならないと約束したがこの共鳴術だけは使うことを許された。
コーセルテルの竜術士としての役割のために。
「俺はあなたに出会えたこと後悔していません。
術を習いたいと言ったのも俺なんですから。だから…自分を責めないでください。」
何を恨むことがあるだろうか。
命と引き替えに自分に自由を与えてくれた恩師。もう一人の父親。
守ることも助けることも出来ずに、ただその死を見ていただけだったけれど。
「また…家族が出来たんです。大切な家族が。
今度こそ守って見せます。だから…見守っていてください。」
「カディオー、ご飯だよー」
「ああ、今行く。」
……ここに、一冊の本がある。
かつて精霊術士として名をはせたリカルドの残した日記帳。
彼は、契約制度を復活させた精霊術士であった。
精霊と契約を交わすことでより強力な術を使うことが出来るが、その契約した精霊の力しか使うことが出来ず、術の威力は上がるが他の属性が使いづらいという難点がある。
特に火や水、光と暗などの反属性はとくに相性が悪い。
だが、契約することによって術士と精霊には絆が生まれ、たとえ場を離れ力を消耗した精霊に力を分け与えることが出来る。
これにより精霊の消耗を押さえるばかりではなく、精霊に力を分け与えることが出来る。
だが、その力を恐れた精霊術士たちの手によって殺されてしまう。
彼の残した日記には、カディオの知らない言葉が残されていた。
自分の死を覚悟した彼の未練。置いていかねばならない愛弟子に残した最後のメッセージ。
けれどその言葉は、今だ語られることもなく。
ただ、愛弟子の元でいつか語られる日を待ち続けている。
彼がその言葉を知るのは、きっとそう遠くない日。
日記帳を読み返し、恩師の思い出と触れてまた眠らせる。
それが恩師の命日に彼が故人への冥福を祈ってする行為。
また来年、彼はそう言って日記帳をしまい込んだ。
【今日から弟子を取ることになった。
不思議な子だった。ドリーのような精霊とすぐに仲良くなり、術の飲み込みも早い。
彼なら共鳴術を私以上に構築できるかも知れない。
私が望んだ可能性。彼だったらそれを見せてくれることが出来るかも知れない。
これからが楽しみだ。】
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