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キミのためにできること


 薔薇マリ仲間のイチカさんとねこやさんとのお喋りで盛り上がったお題です。
マリア視点で書いています。
   
      君のためにできること。

        
         今日は何もない日だった。
        アンダーグラウンドに挑戦することも。
        トマトクンの家でみんなで食事をすることも。
        サフィニアやユリカと買い物に出かけることも。
        アサイラムのモリーやベアトリーチェに会うことも。
        何もないはずの日。
        けれど、買い出しを終えて家に帰ってみるとそこにはずぶ濡れになって
        立ちつくす黒づくめの男が一人。
        マリアの顔を見て嬉しそうに笑った。
       
        「・・・・なにやってるのさ」
        「やあ、マリア。会えて嬉しいヨ」
        「それ会えるだろうさ。ここは僕の家の前なんだから。
        ついでにいうとこんな雨の中何やってるの。
        まあ君がずぶ濡れになろうが風邪引こうが関係ないけどさ」
        「フフ。心配してくれるのかい?」
        「誰が!そのまま風邪でも引いて死んじゃえ」
        「つれないねえ。マリアは」
       
         その日は一日中雨だった。
        降り止むことも知らずに、地上に水の恩恵を与えていた。
        けれど雨の日はキライだった。
        雨の日には良い思い出がない。
        両親が死んだ日も、子爵が死んだ日も、僕が別れた日も
        こんな雨の日だったのだから。
       
        「いやあネ。愛しのマリアに会いに来たんだけど、留守みたいで。
        家の前で待っていようと思ったら雨が降ってきて」
        「それでこんなにずぶ濡れになるまで立ってたの?
        バッカみたい」
        「それもこれも君への愛ゆえさ」
        「一生言ってろ」
       
        変態バカは放っておいて、さっさと家の中へ入ろうと鍵を開ける。
        雨はまだやまない。
       
        「マリア」
        「なにさ?用がないならさっさと帰ったら?はっきり言って邪魔」
        「何かあったのかい?」
       
        カチャ。
        鍵を開けたはずの扉は開くことはなかった。
        ドアノブを握ったままの手がかすかに震える。
       
        「別に、どうもしてないけど」
        「そうかい?いや、なんでもないならいいんだけどネ。
        なんか無理をしてるというか、元気がないというか」
        「なんでそんなことわかるんだか。僕はどうもしてないよ」
        「わかるよ。」
       
        いつのまにかアジアンがすぐ隣にいた。
        そっと髪に優しく触れると、その一房を手にとって口づける。
        その瞬間だけ、時が止まったようだった。
       
        「大好きな君のことだからさ」
        「・・・この変態バカゴキブリストーカー、馬鹿なこと言ってないで
        さっさと帰れ」
        「本当につれないねえ。ボクの麗しの薔薇は。
        まあそんなところがマリアらしいけどね」
        「一生言ってろ」
       
        そう言って今度こそ、玄関の扉を開ける。
        その中に入ろうとして、ふと後ろを振り返った。
        アジアンは不思議そうな顔を浮かべたままだ。
        雨はまだやまない。
       
        「アジアン」
        「なんだい?マリア」
        「髪くらいかわかしたら?それぐらいだったら家に入っても良いよ」
        「え、ま、マママママリア?」
       
        あ、ちょっとおもしろい。こいつストレートにくると意外と弱いかも。
        いいこと知っちゃった。
       
        「うるさいなあ。
        言っておくけど髪乾かしたら、そっこく追い出すからね。
        その後のことは僕は知らないから、文句があるんだったら今すぐ帰れ」
        「文句なんてあるわけ無いじゃないか!それじゃあお邪魔させてもらうよ」
       
        アジアンを部屋に招き入れると、乾いたタオルを適当に放り投げる。
        自分一人分のお茶を入れながら、しばらくどちらとも口を聞かなかった。
        でも、最初に口を開いたのは僕だった。
       
        「・・・さっき、なにしてたの」
        「さっきって?」
       
        ようやく髪を拭き終えたアジアンがこっちを向く。
       
        「家の前でさ、雨しか降ってないのに空見てた。何も見えやしないのに」
        「まあね。でも雨が降ってくるだろう?」
       
        『雨の日は太陽も見えない。
        家の中に閉じこもるぐらいしかやることないな。だけどな』
       
        『ねえ、マリア。そんなに退屈しないで。
        雨の日にもおもしろいことがあるのよ』
       
        「前に友達がね、雨が降ってくるとこはおもしろいっていろいろ言っててネ
        それでちょっと空を見てみたんだ」
        「雨が降ってくるだけだと思うけど」
        「いいや、それだけじゃないヨ」
       
        ふと、何かが聞こえてくる。ポツポツとかすかな音が。
        それは雨の降る音。
       
        「『雨の日には雨の楽しみがある。だからこんな天気も捨てたもんじゃない』
        そう言った人がいてね。ちょっと思い出したんだヨ」
        「それでずっと立ちっぱなし?アジアン、キミってやっぱりバカでしょ」
        「まあ、ちょっと時間が長かったかなとは思ってるけどさ・・・」
       
        バカだ。やっぱりこいつバカだ。
        友人が言っただか何だか知らないけど、やりすぎ。
        でも僕もあんまり言えないな。
        昔、母さんがそう言って雨の中ずっと外にいたんだから。
       
        「アジアン」
        「ん?」
        「もう少し、いてもいいよ」
        「え?」
        「雨がやむまではいても良いよ」
        「え・・あ・・」
        「家の中にいても聞こえるでしょ」
        「・・・そうだね。お言葉に甘えさせてもらうよ。
        この礼は君の好きなケーキでもどうだい?」
        「まずかったら許さないから」
        「了解。とびっきりのを持ってくるよ」
       
         ほだされたわけではない。気の毒になったわけではない。
        ただ、昔同じ事を言われて今もそれを覚えていたことが似ていただけ。
        自分がどこにいてもいいのかわからなくて、外で立ちつくしていた頃。
        今はもう家の中に入れるけど、同じ思いを持った人を招くことぐらいは出来る。
        これがキミのために出来ること。
        イヤだといっても勝手に入ってくるから、たまには招いてやろう。
        そのほうがいつでも追い出せるから。

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Comment

こんばんわ
  • イチカ
  • 2007-07-19 23:41
  • edit
こちらでは初めまして。今日はお疲れ様でしたv

おお、お題が完成してる!!とはしゃぎつつさっそく拝見致しました!

雨の中マリアを待つアジアン、素敵です。
ストレートに弱いとか‥かなりのツボです!
予想外のリアクションに弱いアジアンは良いですよねv
そしてマリア‥何でそんなに可愛いの!!たまりません。
って、これマリ→アジ‥!(感動

何だかしっとりとして、でも笑いあり萌えあり!のお題、とっても良かったです。
有難うございました!!
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