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雲仙が回復し、外出が出来るようになった頃。帝の呼び出しがあった。
久方ぶりに出た外は快適ではあったが、そこで暮らす人々におびえた気配が見られる。
倒れていた間に、事件の深刻さが増していた。
道歩く人々が次は自分かと不安と恐れを抱いていた。
近衛帝がいる清涼殿に行くとそこには泰成と雅家、それに珍しくも大人しくしている蛇晃の姿があった。
どうやら雲仙が一番遅くなったらしい。
この時のために人払いがされていて、よけいな人間が近づくことはない。
ちなみに、雲仙に着いてきた銀蘭だったが話を聞いていた帝の女御に捕まり部屋へと連れて行かれた。
ときおり声からすると、着せ替え人形になっているらしい。
本人は最後まで抵抗していたが、女御の雰囲気に押されて負けてしまった。
「雲仙、近頃の事件を聞いたか?」
「はい。すでに数人の死人が出ており、民はおびえているようです。
解決の術を見つけなければ帝の威信に関わることとなりましょう。」
「しかし、雲仙殿。解決とは言っても手がかりがないのではないか?
殺し方も尋常のものではない。いや、これは人が手を出せる話ではないかもしれん。
泰成、これはお前の領分だろう。この事件をどう見る?」
名指しされた泰成は、巻物を取り出した。
その巻物を広げると、人体の一部に赤い印の付けられた人間の絵があった。
「残念ながら、今の段階では犯人の特定は無理です。
ただ、この事件は人の起こした事件と言うよりも、妖の関わりが感じられます。
この絵は、今までの犠牲者達の奪われた体の個所を示した物です。
奪われたのは人体の一部。両腕、両足、胴体。犠牲者は10人で男5人、女4人。
男の死体の凶器は刃物。
女の死体は食いちぎられているとのことですが、蛇香の話ではどの獣の噛み傷とも違うようです。
そして、唯一の目撃者は“鬼が来る”と言い残して死んだ。」
「犯行が起きたのは丑三つ時。
人間の仕業と言うよりは鬼の仕業っていうほうがしっくりくるだろうぜ。」
「蛇晃!帝の前だぞ!」
「よい、朕は気にせぬ。」
帝の前でも態度を変えようとはしない蛇晃。
しかし、他ならぬ帝が気にはしないと言うのだから泰成もそれ以上強くは言えなかった。
「手がかりがないのは困った物だな。泰成の占いでも明確な答えが出ないと言う。
だが、本当に鬼が絡んでいるのか?」
「だから、鬼じゃと言うたであろう。」
ふと聞こえた女性の声に思わず振り向く。
そこには紅色の女房装束に身を包み、白い扇子を携え歩み寄ってくる銀蘭の姿があった。
「おお、なかなか似合うではないか」
「よくはない。化粧の臭いがいやじゃ。白粉だけは好かぬ。」
そう言いつつ雲仙の隣に腰を下ろすと、帝に礼をする。
一応礼儀は考えているらしい。
「そなたが銀蘭殿か。噂に違わずお美しい。朕は近衛帝と申す。楽にされよ。」
「どんな噂が流れておるのだか。
そなたの女御のおかげで妾はオモチャにされたのじゃなからな。」
「お、おい、銀蘭。」
「まあ良いではないか、雲仙。
女御達もこの度の騒ぎで気が滅入っている。
かようなところに、そなたのように着せ替えがえのある者が来ると気が和らぐ。」
「妾は暇つぶしの道具か。」
「そうとも言うだろうな。」
この帝。今は崇徳法皇に権力を奪われているが、雲仙達の上司なだけあって食えない性格をしている。
銀蘭を着せ替えた女御の藤原多子とは仲がいい。
ちなみに、銀蘭のことを教えて着替えさせてみないかと持ちかけたのはこの帝自身である。
「それで、銀蘭。
先ほどの鬼の仕業というのは確かなのか?泰成の占いでも答えが出なかったのだぞ。」
「前にも言うたが、人とて鬼にもなろう。
それに、泰成の占いを狂わせるのをただの人が出来るのか?
泰成のように強い霊力を持つ者に限る。」
「そうか、力を持つ者なら妨害することも出来る。」
「泰成、そなたに対抗できる陰陽師はおるか?なにかに強い恨みを持つ者。
そなたが知る限りで答えよ。」
沈黙がしばし降り立った。銀蘭以外は知っている。
かつて安倍家と対立し、貴族を何より嫌う在野の陰陽師。
そして泰成と同じように強い霊力を有し、鬼の式神を束ねる男。
「・・・・芦屋道元。安倍家に代々敵対する男。だがその腕は確かだ。」
「お前の先祖の安倍晴明から敵対していたよな。」
「ありゃ、敵対というより。向こうが勝手に敵だと思ってるだけだと思うけどな。
大体、晴明の頃は敵対ってわけでもなかったらしいぜ。」
人の敵対関係になどに興味のない銀蘭は、広げられた巻物をじっと見つめる。
奪われたいくつもの個所。それは現時点でも見つかってはいない。
だが、この奪われた個所はつながればある物をつくりだす。
「人形じゃな。それも霊力をうちに秘める者達ばかり。
宿らせるものはそれだけ高位なものというわけか。」
「銀蘭?」
巻物をみんなに見せるように広げ直すと、それを指さしながら答えた。
その声はどこか楽しそうだった。
「妾がいた世界に、体の部分をいくつもつなぎ合わせることで人形を作り出した者がおる。
作られた人形に魂を宿らせ、主の命令に忠実に従っておったわ。
それに、いくつもの体を合わせたことで強くなる。
巨人の腕、有翼人の翼、大狼の牙。個別の力を合わせたことでより強い命となった。
おおかた、これもそのたぐいじゃろうな。」
「では、殺害された者達は恨まれていたのではなく、材料集めのためか。」
「銀蘭殿。殺され方が違う者もいるが、それもなにかあるのか?」
「妾はその分野は詳しくはないが、宿らせる者の状態に関係があるのじゃろう。
死に方か、埋葬の仕方か。そんなところじゃろうな。
宿らせるものの状態により近づけることで、宿らせしやすくなる。」
「では、この事件はまだ終わらないだろうな。
人形を作り出しただけではなかろう。その後に来るものがあるはずだ。」
「どちらにせよ。この都を破壊させるわけにはいかぬ。
この京には多くの民がいる。
罪なき人々を巻き込んではならぬ。そなたたち、今回の件とくと頼む。」
「御意。」
その様子をじっと見つめていた銀蘭は静かに微笑んでいた。
退出後、衣装をそのまま貰うことになった銀蘭と雲仙は車を待っていた。
本人は着替えると言った。
だが、せめて帰るまではその衣装でいてくれと女御に泣きつかれたためそのままでいた。
本人いわく、どうも姉様みたいで断りづらいということだった。
「雲仙、人とはおもしろい生き物よ」
「どうかしたのか?妙に改まって」
「関係のない者達のために、あそこまで命をかけていけるのか」
「・・・・・そうだな、別に正義感でも使命でも何でもない。
儂がそうしたいからそうするんだ」
「妾にはよくわからぬ。妾が今まで守りたいと思ったのは身内ぐらいなものじゃ」
「それでいいのではないか?大切なのは何かを守ろうとする意思だからな」
「そういうものか・・・・」
ふと、何かの気配を感じ取った。とても黒くて重たい何か。
雲仙達とは違い闇に進んでいくような気配。
向こうの方から、2人の男がやってきた。
1人は烏帽子をつけた雲仙と同じ位の歳の男。
もう1人は、薄汚れた衣をまとった貴族とは思えない男。
すでに白髪の見える頭から、男が苦労してきたことがわかる。
「おお、雲仙。久しぶりだな。病に倒れたと聞いたが元気そうで何よりだ。」
「中臣ではないか、久しいな。この通り体調のほうは元通りだ。
こんな病で倒れるとは、儂も弱くなったものだな。」
「体力自慢のお前の言うことか?」
「そう言うな、病気だったのは本当だぞ。そういえば、そちらは?」
「法師の芦屋道元ともうします。雲仙様の噂は各地で聞いております。
お目にかかれて光栄です。」
「様はやめてもらえぬか。儂はただの修行僧であってな。
それにしてもなぜ芦屋殿がここに?」
「最近の事件はもはや有名だろう?私が芦屋殿を呼んだんだ。
泰成殿と共に事件を解決してもらおうと思って。」
「そうか、それは良い考えだな。」
和やかに談笑する傍らで、銀蘭をじっと見つめる目があった。
その目線の主を見据える。
「芦屋様。何か私の顔についていますか?」
「おお、これは失礼した。
宮廷にあなた様のような美しい方がおられるとは、思いもせなんだから。」
「雲仙、そちらは?」
「儂の旅の連れでな。銀蘭という。
銀蘭。儂の友人の藤原中臣殿だ。儂の古くからの親友で、儂の妹の夫でもあった」
「白拍子の銀蘭ともうします。」
「いやはや、ここまでお美しい方と一緒とは雲仙様にはもったいない」
「藤原殿。そろそろいかねば。」
「おお、そうであった。雲仙。名残惜しいがまたな。
今度全快祝いに酒でも飲もう。」
「それはいいな。俺はいつでもかまわんぞ。」
「わかった。都合の良い日を教えてくれ。では、またな。」
そう言って、2人は去っていった。
2人が視界から消えると、そっとつぶやいた。
「雲仙、今のが芦屋か。あの男はもう人ではないぞ」
「・・・お前も感じたか。やはり、あの男が事件に関係があるだろうな」
「少なくとも力は本物のようじゃ。妾の正体に感づいていたからのう。
それにしても、そなた妹がおったのじゃな。妾は会ったことがないが。」
「会えぬさ。妹は二年前に両親共々死んだからな。ちょうど、お前ぐらいの年頃だった。」
「そして妹の夫が芦屋と共にいた中臣か・・・雲仙」
「なんだ?」
「そなた、友と戦えるか?」
「・・・・・・・・・わからん。ただ、そうせねばならぬのなら。
それしか救いがないとするならば、儂はきっと戦うであろう。」
「そうか。ならばよい。」
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