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平安編~さまよう娘~幽霊

 
   彼女と話をしたのはほんの気まぐれだった。
屋敷について数日後、雲仙がどこかへと出かけ一人屋敷をさまよっていたとき。
そのとき、彼女に出会った。
あの満開の桜の下、ひっそりとたたずむ一人の女性。
元から浮遊霊や自爆霊など気にかけないが、そのときはなぜか気になった。

「そなた、そんなところで何をしておる。雲仙に取り憑いているならさっさと呪い殺せばいい。
けれど、あやつは一応妾の恩人。殺す前に妾がそなたを殺す。」

じっと屋敷を見つめていたその女性は、銀蘭の言葉にキョトンとして、そして笑った。

『私には人を呪い殺す力はございませんよ?
それにあの人を殺そうとなど…できませんわ。』
「そうか。では早く成仏するなりすればいい。
こんなところにいては死神たちがうるさいからのう。」
『ああ…もう何度か来ましたわ。
私、鬼が迎えに来ると思っていましたから、私たちと変わらない姿をしていて驚きましたわ。』
「所詮は人間たちが想像した産物に過ぎぬからな、霊界には鬼もいるがそう怖くはない。
そなたも今のうちに成仏すれば天国へゆけるぞ。彷徨えば彷徨うほど、そなたの罪は重くなる。」
『わかっております。私は死者、現世にとどまってはいけないということを。
けれど…わかっていてもどうしても待ちたい方がおりますから。』
「…待つ?」
『ええ、私の生涯の中で、唯一私が愛したお方。あの方は知らないでしょうね。
ずっと…童の頃からお慕いしていたことを。』

そう言って彼女は胸元から小さな袋を取り出しギュッと握りしめた。
恐らくは彼女と一緒に埋葬されたもの。

『昔…私は本当に体が弱くて、よくお兄様に心配をかけていましたわ。
役立たずで何も出来なくて、いっそ死んだ方が両親の迷惑にならないと何度も思いました。
けれど、そんなときあの方に出会ったのです。』

“君の刺繍は上手だね。”

『初めてでした。家族以外の人と会うのも、家族以外の人に褒めてもらうのを。
今思えば、あんな縫い物下手だってわかるのにあの方は褒めてくれたんです…
それが私の恋の始まりでした。』
「よくある話じゃな…どこにでもある普通の。」
『ええ、本当に。…あなたは誰かに恋したことがありますか?』
「…ああ。それなら・・・・」

―ずっと昔、ここに来る前の話。生涯ただ一度の忘れられない恋をした。
愛に変わる前にその人は死に、自分だけが取り残された。
そう、どこにでもある普通の悲劇。

「一人だけ…きっとそやつ以外は誰も愛せぬじゃろうな。」
『ええ、わかります。私もそうですから。お父様もお母様もお兄様も大好き。
でもあの方は別なのです。』
「そうじゃな…家族とは別。だからこそこうして狂おしい想いをいだくのじゃな。」
『ええ、本当に。…私、言ったことないのです。童のころから好きだって。
でも私はお兄様がこっそり教えてくれました。あの方は私に一目惚れしたんだよって。』
「いっそ言わないでおけばいい。これも駆け引きよ。」
『そうですわね。それもおもしろそうですわ。2
人で一緒に暮らして、おじいちゃん、おばあちゃんになったら…そうしたら言おうと思ったのです。』
「…なぜ死んだか聞いても?」
『それこそよくある話ですわ。伊勢神宮へのお参りをしようと思ったのです。
一度でいいから行ってみたくて。…ついでに夫の家を見てみたくて。』
「この都は通い婚だからのう。夫の家など普通は見ないじゃろう。」
『ええ、でも私。夫の家に行くことにしたのです。ずっと一緒にいたくて。
両親も許可してくれましたし、その日は…下見のつもりで、一泊してあの方がくるのを待って伊勢神宮へ参るはずでした。』

けれど、その日迎えに来たのは夫ではなく、罪深き罪人たち。
はじめに殺されたのは長年世話をしてくれた乳母、私が夫の家に行くと同時にお暇をもらうことになっていたはずの。
その日家にいた女房が、警護の人が次々と殺されていき、そして。

『私が最後に覚えているのはこの体から発する熱さと辺りに充満する血のにおい。
本当に痛い時って…痛みを感じないのですね。』
「犯人は捕まったのか?」
『いいえ。これこそよくある話ですわ。つかまらなかったそうです。
けれど、死者になった今はわかる。夫を、兄を邪魔に思う者たちの仕業。
この体だとどこにでも行けるし、誰にも見えませんからね。』
「その相手を聞いても?」
『だめですわ。』

そういって彼女は優しく笑う。銀蘭が何をしようとしているか。
それを察してなおも、止める。

『これは私の恨み、これはあなたの恨みではない。
それに…因果応報、己の悪行は必ず己に変える。…だから、私への罰であり、あの方への罰である。』
「何?」
『私の声はあの方には届かない。またお兄様と接触することはあの方への裏切り。
私は兄よりもあの方を選んだのですわ。だから、私は何もしない。何も喋らない。
愚かな娘とあざ笑いください。狐様―。』
「・・・・そなた妾が見えるか。」
『私はもとよりこの世ならざぬ物が見えましたから。死した今はよりはっきりと。
私は見えますわ。美しい白毛の狐が。』
「そうか…それで、そなたは何を望む?」
『愛しいあのお方を待つことですわ。私もまた罪を知ってなお、止めることは止めた。
ならば、地獄の底まであのお方にお供するのが私の望み。』
「それが多くの死を呼ぶとしても?」
『知っていますわ。けれど、もう止められないのです。あなたもすぐにわかる。
この都を覆う怨念が…もう誰にも止められない。始まるしかないのです。』
「・・・・そうか。まあ妾には感心のないことじゃ、人が生きようと死まいとどうでもいい。」
『ええ…これは人の世界の出来事。妖のあなたには関係のないことですね。
もし、それでもなおあなたが関わらぬなら、それは縁ゆえでしょうね。』
「あるかわからぬがな。」
『きっとありますわ。そう思うから
・・・・ねえ、狐さん、一つだけお願いをしても良いかしら?』
「なんじゃ。」
『今日、ここで会ったこと、ここで話したこと、この屋敷の雲仙様には内緒にしてください。
出来ればずっと。』
「なぜじゃ?」
『あの人はきっと知らなかったことを気にしますから。私がわざと黙っていたというのに。
だから余計なことは知らなくて良い、あの人はただ敵だけを見据えていればいいのです。
余計な思いは…事件の裏に潜む悲しい思いは知らないままでいて欲しい。』
「…なぜ妾に話す?」
『少しだけ感じれた…あなたも私と同じ思いを持っている。
愛しい人を待って…何かに恨みを抱いて…泣いている。
あなたなら、狐さんならわかってくれると思って。…ダメかしら?』
「………いや、よくわかる。いいじゃろう。ただ、会ったことはいつかは話す。
余計なことは喋らない、それでよいか?」
『ええ…ありがとうございます。…さあ私はもう行きます。これ以上いると見つかってしまうから。
今日はありがとう。さようなら、狐さん。』
「さらばじゃ、名もしらぬ娘。』

そう…余計なことは知らなくて良い
あなたは、敵を倒すことを考えればいい。古き親友であり…妹の夫を。
そうでしょう?お兄様。

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