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紫陽花


 外の世界に出て、暗闇との違いに驚いた。その中でも一番驚いたのは雨。
暗い闇の底では雨は降らない。
空から降る滴が肌に落ちる感触を楽しみたくて、蓮花が止めるのも聞かずに外に出た。
暗闇とは違う。空から降る雨を見るのが好き。

「お前、なにしてんの?」
「見てわからないのか。雨を見てるんだ。」
「そりゃあ、わかるけどよ。
こんな朝っぱらから。しかも雨が降ってる中で、傘も差さずによく突っ立ってられるよな」

 確かに黒鵺の言うとおり。実際、姉様たちはみんな傘をさせと言っていたから。
雨の中、外に出る俺を蓮花がいつも苦労して止めてたっけ。
妥協したのはカッパを着るようになってからだったかな。
最近はそんなこともしなくなったけど、朝早く起きて降っている雨を見たら無性に外に出てみたくなった。
どうせ今日は仕事もないし。

「お前さあ、今日の食事当番だって事忘れてる?」
「ああ、そう言えばそうだった。昨日のシチューでも温めて…」
「まて、そりゃ手抜きじゃねえか。」
「いいじゃないか。元々昨日の当番を代わってやったんだぞ。
それなのに、誰かさんが今日の当番まで俺にやらせて。」
「いやあ、お前の方が飯うまいからな。」

 当然だよ。家事は蓮花にみっちり仕込まれたんだから。
中途半端に習うよりはちゃんと習う方がいいってね。
まあその蓮花でも、なぜか姉様に料理を教えようとはしなかったけど。
最初の頃は頑張ったみたいだけど、諦めたって言ってたっけ。小さすぎて覚えてないけど。
姉様の料理ってそんなに下手だったのかな?
唯一食べたことがあるのは、クッキーくらい。
形がすごいことになってたけど、おいしかったっけ。
それを食べた兄様や蓮花が涙ぐんでたのがすごく気になったけど。

「お前、また花増やしたのかよ。」
「庭を好き勝手にいじって良いと言ったのはお前だろ。」
「どう考えても実用的じゃあねえと思うけどな、紫陽花なんて。」

 俺と黒鵺の目の前には、雨の中でも綺麗に咲き誇っている紫陽花がある。
確かにあまり実用的じゃあないけれど、俺はこの花が好きなんだ。
それにこれだって解熱作用があるし。たぶん、使わないけど。

「いいじゃないか、綺麗だろ。紫陽花は雨の日が一番綺麗なんだ。」
「お前の花好きは、今に始まった事じゃねえけどな。」

 そう言って紫陽花の花をしげしげと見つめている。
こいつ基本的に俺の花には触れなかったな。
何されるかわかったもんじゃねえってよく言うけど。
確かに、一度毒花の毒を吸い込んで死にかけたことあったからしょうがないけど。
ちなみに俺には毒は効かない。昔、体に慣らしたから。
そんなことをしなくても、植物たちは俺を傷つけないけど。

 「そういや、知ってるか?紫陽花の花言葉は『移り気』って言うんだぜ。
お前も紫陽花みたいに場所変えれば、もっと色っぽくなるかもな。」

 とたんに黒鵺が俺のパンチをよける。
悪かったな。色気がなくて。

「お前が花言葉を知っている方が驚いた。」

 とたんに黒鵺がガクっと首を下げた。

「俺を誰だと思ってるんだ?女を口説くにはそれこそいろんな手段が必要なんだぜ。
 花言葉ぐらい知ってるに決まってるだろうが」
「移り気の花言葉が女を口説く言葉になるとは思えないけどね。おおかたふられたんだろ。」
「お、お前なあ・・・」

 花言葉。俺も蓮花や姉様に色々教わったな。
俺は普段から花とは接していたけど、たまに兄様が姉様に花束を持ってきたっけ。
まんざらでもなさそうな顔してたけど。

…あれ、そう言えば紫陽花の花言葉他にあったんじゃないかな。
全体のやつとしては。
『移り気』『ほら吹き』『あなたは冷たい』『無情』『元気な女性』『高慢』 
後は…

「黒鵺」
「ん?どうかしたか」

  青い紫陽花をしげしげと見つめていた黒鵺が俺の方を見た。

「お前、紫陽花がどうして『移り気』なんて花言葉になってるか知ってるか?」
「そりゃあれだ。場所ごとで色が変わるからだろ。」
「はずれ。咲き始めは薄緑なのにだんだんと色づくからなんだ。
けれど、土の成分で色が変わるのは事実。」

 そう。紫陽花は土の成分で色が変わる。
植えた場所によっては、同じ紫陽花でも別な色になる。

「土が変われば色が変わる。
けれど、場所を変えることなく、そこにあり続ければ色は変わらないんだ。」
「おい…。」

 立ちつくす黒鵺に目線をあわせる。
俺より少し背が高いから見上げることになるな。
この立ち位置が好きだっていったらお前はどういう顔をするのかな。

「俺はお前の相棒を止めるつもりはない。」

 そう言って俺はスタスタと家に向かって歩き始めた。
慌てて黒鵺が追いかけてくる。

「そりゃあれか、俺に惚れてるってことか。」
「一生言ってろ。」

 ふと、振り向いてみるとちょうど雨が上がったところだった。
空からは七色の虹が見えいて、雲の切れ間から光が注いでいる。
その光に合わせるように、紫陽花が白い閃光を発していた。
紫陽花に残った水の粒が光を反射しているからだ。

「青い紫陽花の花言葉を知っているか?」
「いいや、知らないね。同じじゃないのか?」
「青い紫陽花の花言葉は『忍耐強い愛』って言うんだ。」
「お、おい。そりゃどういう意味…。」
「知らない。」

 そう言って俺はさっさと家に入ってしまった。
空から落ちる雨が好き。けれど、もう一つ好きなもの。
雨が上がった空が好き。晴れた空に虹がかかるから。


 紫陽花

別名 七変化(しちへんげ)、大額草(おおがくくさ)、オタクサ
花言葉 辛抱強い愛情
桃 元気な女性 青 忍耐強い愛

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