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七夕


 昔々、あるところに牛かいの彦星と織姫という美しい女性がいました。
二人はずっと愛し合っていましたが、一緒にいることに夢中になり仕事をしませんでした。
これに怒った天帝は二人を引き離し、天の川を隔てて会えないようにしました。
しかし、嘆き悲しむ二人を哀れに思い、年に一度だけ会うことが許されたのです。


「・・・と言うわけで今日は二人が会えるという七夕の日です。
この日に願い事をしておけば、二人は会えない悲しみを紛らわすために
今日以外の日で願い事を叶え続けているから、みんなもお願い事を書きましょうね。」
「は~い。」

 とある学校の中庭。
見るからに小学生と思われる集団が竹の枝を取り囲み、細長い紙とペンを持っている。
そして、それを不思議そうに見つめている少女が一人いた。
南野秀。小学一年生。けれど元は銀髪の妖孤。
長い年月を生きていたはずの彼女は、ハンターに追われて人の姿に転生した。
それゆえ、人間に混じり小学生として活動せざるを得なかった。
しかし、学校というものに経験がなかったため、人間界での暮らしも珍しいことばかりなのでまんざら悪くないと思っている。

「秀ちゃんは何て書くの?私はね、お嫁さんになりたいって書いたよ。」
「う~ん、どうしよ・・・。」

秀に話しかけたのは喜多嶋麻弥。
入学した当初から彼女の親友として仲良くしている。

「やっぱり、お父さんとお母さんが元気でいますようにかな。」
「夢がないね~まあ秀ちゃんらしいけど。私みたいにお嫁さんって書かないの?」
「・・・・相手いないもの。」
「え?何か言った?」
「なんでもないよ。はやく吊しにいこう。」
「あ、まってよ~。」


 その夜、寝室から空を眺めて見る。
そこには都会の光をものともせず、光り輝く天の川が見える。

(雨が降ったら会うことは出来ないか…オレはもう会えないしな。)

 彼女が愛した人はこの世のどこにもいない。
彼以外を愛することは出来なかった。
かつて彼が夢見た魔界と人間界の統一と、姉の玉藻をよみがえらせようと人間界に来たが
人間界の混乱の中、部下を失い三守ともはぐれて幾年月。
母は確かに優しい。けれど妖怪である以上ずっといることはかなわない。
彼女が大切に思う人は、みんないなくなってしまう。
年に一度でも会うことが出来る彦星と織姫のほうが幸せそうに見えた。

(だめだ。もう寝よう。)

襲いかかる思考の固まりから逃げるように彼女はベッドに潜り込む。
庭におかれた笹の葉が風に吹かれて揺れた。

「どこだ…ここ。」

 ふと、目を覚まして見ると見慣れた自分の部屋ではなく、どこかの河原にいた。
草木が風に揺れて夜空にはたくさんの星が散らばっている。
あきらかに家ではない。

「とりあえず、歩いてみるか。」

 そのとき、ある違和感がした。自分の目線が高い。
それに着ている物もパジャマではないような気がする。
確か来ていたのは青いパジャマだったはず。これは白に見える。
蔵馬は河原に降り立つと水の中をのぞき込んだ。
そこにいたのは銀髪に金眼の白い着物をまとった妖狐の女性だった。

(な、なんで…。)

ハンターに追われて、妖怪としての体は確かに死んだ。
霊体を切り離すのが精一杯だった。
もう二度とあの姿には戻れないと思っていたのに、今こうして自分の体がある。
自分が最も嫌いだった銀髪の姿に。

(何かの罠か?)

 自分を狙う妖怪は数知れない。
心当たりがありすぎるため、すぐには犯人が思い浮かばない。
しかし、だからといってこの姿に戻す理由があるのだろうか。
まずは行動しようと立ち上がった時、声が聞こえた。

「蔵馬。」
「え……。」

 懐かしい声、懐かしい呼び名。今はいないあの人。
人の手によって封じられた姉。霊界の結界によって人間界と切り離された魔界にいる兄。
戦争の中にはぐれた三守。その名を呼ぶ者はもう彼らしかいない。
例外は自分を敵として狙う妖怪のみ。こんな風にやさしく呼ぶ者は誰もいない。
声が聞こえた場所を振り向くと、そこにはいるはずがない人がいた。

 「…黒鵺。」

かつての相棒、そしてこの世でたった一人愛した人。
忍び込んだ宮殿で命を落とし、転生の輪の中に行ってしまった。
決して蘇るはずのない人。死んだ者は生き返ることはないのだから。

「久しぶりだな。元気にしてたか?」
「・・・・・・・。」
「お前は結構無茶する奴だからな、心配でしょうがねえぜ。」

黒鵺は蔵馬の元に歩み寄り、呆然とする彼女の瞳をのぞき込む。
その目には、自分が惹かれた輝きがある。
人形のような冷たい瞳。けれどその中に見える子どものように無邪気な瞳。
彼女だからこそ持つアンバランスな瞳。
自分がどうしても、もう一度見たかった瞳。

「どうして……。」

やっとの事でそれだけを口にした。

「オレにもわからねえ。気がついたらここにいたからな。
なんだ?うれしくないのか?魔界1のいい男黒鵺様が戻ってきたんだぜ。」
「自信過剰なところも相変わらずか・」
「おい、まて。オレは自他共に認めるいい男だぞ。
お前だってそんな俺に惚れたんだろうが。」
「ちょっと待て。誰がお前に惚れたって!!」
「だからお前がだ。何しろ、今でもオレのことを考えているくらいだからな。」
「ドジをふんで勝手に死んだ奴をいつまでも覚えていられるか!」
「ひでえ、オレだって死にたかった訳じゃないってのに。」
「あのとき、俺がどんな思いだったか。お前にはわからないだろう。」

気がつくと、蔵馬の瞳に大粒の涙がこぼれていた。
助けることすら出来ずに死なせてしまった愛する人。
その思いを告げることすらも出来なかった。
そして、黒鵺もまた自分が死んだことで蔵馬が傷ついていることを知っている。
彼が最後に見たのは泣いている彼女の姿だった。
今ここに、同じ姿が目に入る。
お互いの意地っ張りな性格が災いして、思いを告げることは出来なかった。
今も、それを伝えることは出来ない。
今はまだ。

「わりぃ。けどな、俺だってお前を残したくはなかったんだぜ。」
「聞きたくない!お前は…死んだじゃないか。死んだはずなんだ。
なのに…あのときからずっとお前がいるんだ!
…あれはお前なの?」

遠い記憶の中で出会ってしまった人。彼ではないけれど彼と同じ姿を持つ人。
そして、同じように名前を呼ぶ人。
白い仮面の奥に確かに見えた、彼と同じ紫の瞳。

「それに関しては、俺はまだ何も言えないんだ。
でもこれだけは覚えておけ。俺はお前の相棒だ。」
「何言ってるんだ?そんなの当たり前だろ。」

そう言って微笑んだ蔵馬の姿を見て、黒鵺もまた笑った。
そのとき、黒鵺の姿が薄くなっていった。
姿が薄くなっていく、向こうの景色が目に映る。

「黒鵺、お前どうしたんだ?」
「空を見てみろよ。良い星だぜ。」

空にはたくさんの星が散らばっている。まるで宝石箱を開けたように。
夜空を照らすかのように、東の空から太陽が昇りはじめた。

「お別れだ。また会おうぜ、蔵馬。」
「また、俺をおいていくのか?」
「そんなに泣くなよ。また会えるからな。俺には不可能はないんだよ。」
「黒鵺…。」

姿が消え始めた黒鵺が蔵馬に近寄ると、やさしくキスをした。
それが最後の記憶だった。

「秀、朝よ。おきなさい。」
「お母さん…?」

目が覚めると自分のベッドの上にいた。
今までのは夢だったようだ。
ベッドから降りて窓から庭をのぞき込む。

「ありがとう。願い事を叶えてくれて」

庭につるした短冊に、叶うことのない願いを書いた。

『あの人に会えますように。』

彼らの再会の日はまだ来ない。
けれど、花がまた咲くように出会いは必ず巡る。

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