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鬼の霍乱という言葉がある。
普段非常に元気な人が思いがけなく病気になることをたとえていう。
しかし、今回ばかりは当然というか、自業自得である。
たとえば、徹夜で遺跡の報告書を書き上げる。
たとえば、その翌日に遊んでやれないからと、朝からこれでもかと子竜たちと遊び。
たとえば、余所の子竜たちのイタズラが原因で森の精霊たちに呼ばれて後始末をしたり。
常々、仕事のしすぎと言われる木竜術士は、見事にボクの目の前で倒れてくれた。
たまたま遊びに来たから良いけど、急に倒れたら子竜たちびっくりしちゃうてのにさ。
まあ、木竜ゆえか、それとも自覚が出てきたせいか、一度指示を与えたら後はテキパキ働いちゃうのはさすがってゆうべきかな。
その甲斐あってか、今は熱も引いてぐっすり寝てる。
これなら明日には動けるだろうな。まあ、仕事はさせないけど。
「ミリュウさんの言う通りね。まったく、カディオは無茶ばかりするんだから。」
「それでも、きっちり仕事終わらせてから倒れるってのがまた・・・・。」
「らしいねえ。」
―コンコン。小さなかわいらしいノックの音が聞こえた。
さっきから心配ででも、邪魔しちゃいけないって遠慮してたんだよね。
「入っておいで。キーニ。カラナ。ロット。」
「・・・・いいの?」
「うん、もう落ち着いたからね。明日には一緒に遊べるよ。」
そう言ったとたん、年少組がだだっと入ってくる。
普段カディオは風邪引かないから、滅多にない姿で不安になったんだろうな。
「こーら、三人とも。乗っかったらカディオが苦しくなっちゃうでしょ。
降りなさい。」
「でもノイ~カディオ良くなるよね。ねえ、元気になるよね?」
「カラナ。カディオはただの風邪だって言ったろう?おいで、あっちでオヤツにしよう。
キーニも、ロットもそんなに泣かない。」
「ミリュウさん、すみませんけど、少しの間だお願いできますか?」
「うん、いいよ。なんなら今日はここに泊まるよ。家の子たちには伝言しておいてし。」
「え…でも。」
「いいよいいよ。どうせ暇だし。さ、言っておいで。」
「そうですね・・・・どうもすみません。」
パタン。とたんに部屋の中が静まりかえった。
後に残るはボクと眠っているカディオだけ。寝台に座り、髪をすいてみる。
もちろん、起きるはずはない。
「まったく、不調くらいは言って欲しいよね。」
そんなに頼りないのかボクは?
自分の仕事くらいはちゃんとやると言ってもカディオはききやしない。
そりゃ確かに、前に報告書にちょっと誇張したらちょっと大げさなことになったけど。
でもさあ、体調崩すまで欲しくないんだよね。
「もっと自分を大事にしてよ。」
沈黙だけが返ってくる。起きる気配はまったくない。
ため息だけついて、ベッドにもたれかかってみる。
思い返すのはさっきカディオが倒れた瞬間。
『カディオー、遊びに来たよー。』
『・・・・・なんだ、お前か。悪いが今は忙しい。』
『そんな事言わないでって。繕い物頼みに来たのと、あと新術見せに来たんだよ。』
今から思えば、どこかいつもより力がなかった。
いつもなら“また破いたのか?”とか“また変な術を作ったのか?”とか言うだろうに。
やっぱり体調悪かったんだな・・・・。
『でねー。マシェル君ちでさ・・・・・カディオ、どうかした?』
『・・・・・』
いつものように雑談ふって、それにカディオが答えるはずだったのに。
ふと見たカディオの顔色はとても赤かった。
『・・・・・カディオ?』
『ミリュウ、悪い。あとたの・・・・む。』
その瞬間に倒れてきて、さすがにあれは頭が真っ青になった。
なんて言うのかな。とても怖いと思った。
カディオがいなくなってしまうようで。
そんなこと思ったのは・・・・あの時以来だ。守人をみた時以来・・・・。
すぐに我に返って、額に手を当ててみたら熱があってただの風邪だって気づいた時はほっとしたっけ。
まったく、本当に人騒がせなんだから。
「・・・・・わるかったな・・・・。」
「へ?カディオ、いつ起きたの!?」
寝台からこっちを見ているのは、眠っていたはずのカディオ。
いつから起きていたんだろう・・・・。
「お前が人騒がせだって言ったとき。」
「・・・・声に出してた?」
「まあな。・・・・・あいつらは?」
「下でオヤツにしてる。大丈夫だよ。ノイさんとロイ君もしっかりしてるし。」
「そっか。悪かったな、面倒をかけた。」
「コレに懲りたら、もう少し体調管理に気をつけなよ。どうせ徹夜とかしてるでしょ。」
「うっ・・・・・。」
「たまたまボクがいたからいいけどさ。いっつもいるわけじゃないんだよ?」
「・・・・いたから、安心したんだよ。」
「はあ?」
「体調悪いのは気づいていたんだ。だから、自分でなんとかしようと思ってたんだが。
・・・・お前がいたから、ああ、これで安心できるなって思ったら、倒れたんだよ。」
「・・・・それって、ボクがいたから安心して気がぬけて倒れたってこと?」
「・・・・。」
「カディオ、だまるのはズルイよ。」
「・・・・だれにも言うなよ。」
「言わないって。誰かにいうなんてもったいないこと。
カディオ、早く治してさ。一緒にどこかに出かけようか。」
「それもそうだな・・・・。」
「約束だよ。さ、もうちょっと寝てなよ。
夜になったら起こしてあげるからさ。」
「・・・・ああ、あとでな。」
「うん、また後でね。」
安心して、ボクは必ず君のそばにいるから。
だから、今はゆっくり休んで。
元気になったら、また遊ぼう。
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