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ただいま


     …これは誓い。
    逆らうことなど許さず、ただコーセルテルの敵を倒すことだけを己が使命と考えよ。
    それがお前が竜術士となる唯一の条件。
    力は封じよ。たとえ天と星の力をもっていたとしても。
    お前が持ち、守護するは木の力のみ。他は認めぬ。
    されど、敵を排除するに竜術を使ってはならぬ。もちろん精霊術もだ。
    使ったが最後、お前の記憶を封じここから追放することとする。
    竜を守り、コーセルテルを守れ。
    それが―それが守人たる者の唯一にして絶対の誓い。
    決して破ることなかれ。
   
    『ならば…守ることを誓います。
    この地を、家族を、この地に生きるものたちを守ることを。
    師から学んだこの力をその全てに使うことを。
    “我、決して誓いを違えることなかれ”
    共鳴術は世界との約束。破ると同時に俺は死ぬでしょう。
    この命尽きる瞬間まで、守り続けることを誓いましょう…。』
   
    たとえ、そのために俺が俺でなくなろうとも。
    ごめんなさい、先生。やっぱり俺はこういう生き方しかできません。
    不器用であろうと、戦うことしか出来なくても。
    それでも新しい家族を守りたいと思うから。
   
    『カディオ。どうしても…竜術士になるんですか?』
    『このまま、精霊術士でいろよ!
    だって、お前は俺たちの精霊術士なんだから、竜と一緒にいなくていいだろう!!』
    『…ごめん。精霊術士であることに後悔はないし、お前たちと完全に絆を断つつもりもない。』
    『ではなぜだ?お前はもう自由だ。
    わざわざ竜たちの足かせをはめることに何の意味がある?』
    『お前が竜術士になろうとどうでも良いが、返答次第ではここから無理矢理連れ出してやる。』
    『アリオン、シャルド。少し落ち着け。…みんなには悪いと思ってる。
    でも、もう決めたから。』
    『…このままではダメなんですね。』
    『お前たちと一緒にいるのはとても楽しい。でも、俺がダメなんだ。
    忘れられない。先生が死んだあの時のことを。
    心の奥の何か大切な物が壊れて、元に戻らないんだ。
    …いつかは昔のようにあれたらいいと思う。でも今はダメなんだ…。
    みんなが許してくれても、俺が自分を許せない。』
    『…寂しいけれど、カディオがそうしたいなら仕方ないね。
    竜たちがうるさいから、一旦契約は破棄するよ。でも、一度かわした約束は絶対だから。
 いつでも呼んで。』
    『…ごめんな。』
    『謝らないでください。気持ちはよくわかるから。
    私たちこそ…守ってあげれなくて、助けられなくてごめんなさい。』
    『みんなのせいじゃない。これは俺が招いたことだから。』
    『いつか必ず、お前に掛けられた暗示を解く。
    そのときは、皆で過ごしたいものだな。』
    『そうだな。…約束だ。』
   
     だから、今こうしてこの手を赤く染めることになっても後悔はしない。
    竜術は使えない。精霊術も使ってはならない。
    ならば、今一度“銀鳴”の名を名乗ろう。
   
    リィィィィィィィィン リィィィィィィィィン
   
    呼んでいる。コーセルテルに張った結界が教えてくれる。
    この地に災いをもたらす客人の存在を。
   
    「本当にこの山奥に竜がいるのか?」
    「まあ、古い伝説だからな。いっちゃあ悪いが半信半疑ってやつだ。
    けどよ、もし本当に竜がいるならそれこそ巨額の富が手にはいるってものさ。」
    「竜の血をあびた者は不老不死となる。竜は数多くの財宝を持っている…
    そんな伝説は山とあるからな。物好きがいくらでも金を積んでくれるだろ。」
    「ちげえねえ。…ん?誰かいるぜ。」
   
    来たのは数人の男たち。手には武器を持っている。
    精霊たちが教えてくれる。この男たちは“優しい夢を見ない”と。
    なら、やることは決まっている。
   
    「これは警告。立ち去ればこちらからは危害は加えない。
    けれど、そこから一歩で進めば相応の態度を示す。」
    「はあ?なんだ。こいつ。」
    「竜の番人ってか?人間のくせに竜を守ろうってわけか?」
    「おもしろい。やってもらおうじゃねえか。」
    「…警告は完了。退去認められません。侵入者迎撃にあたります。」
    「どうやら自分の立場がわかっていないようだな。丸腰で何が出来る!」
    「“世界よ 私は助けを求めしもの その救いの力を示せ”」
   
    たった一言。それだけあればいい。それだけで世界は終わる。
    戦うのは、倒すことはとても簡単。
   
    「……また、か。最近は少ないと思ってたんだがな。」
   
    すでに男たちの姿は見えない。
    記憶を消してどこかに飛ばしたからここに来ることはもうないだろう。
   
    「…帰らなくちゃ…」
   
    約束したから、あいつと。仕事が終わったら必ず帰ると。
    待っているから、絶対に帰っておいでと。
   
    「お帰り、カディオ。」
   
    皆が寝静まったはずの家。
    けれど暖炉には火が入れられ、コップには温かいスープが入れられている。
    いつからこうして、人の家の物の場所がわかるんだか。
   
    「外は寒かったでしょ?それ脱いでさ、早く着替えて。
    ああ、子竜たちなら心配いらないよ。みんなぐっすり寝てる。」
    「…………。」
    「ランバルスさんがさ、もう少し見回り強化したほうがいいかって。
    それにもう少し情報集めた方が良いみたいだから、カシとかにも協力してもらったほうがいいかもしれないね。」
   
    そう言って、テキパキと世話を焼きはじめる。どこか手つきが危なっかしいが。
    それでもその手の温もりが気持ちよかった。
   
    「…ミリュウ?」
    「なあに、カディオ。」
    「…ただいま。」
    「ようやく喋ってくれたね。お帰り。お仕事お疲れ様。休んでいていいよ。」
    「…いいのか?」
    「いいよ。今日は頑張ったし。ゆっくり休んで、朝まで一緒にいるからさ。」
    「…そうする。」
   
    たとえこれしか出来なくても、守りたいものがあるから。
    だから、俺は守人で居続ける。

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