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ある小さな村に一人の少女が住んでいた。
何もないところから火を生み出し、水と戯れ、風と遊ぶ。
少女が望めば土は実りを増やし、木々は新たな花を咲かせた。
どんな暗闇でも迷わず歩き、光が途絶えた場所に光をもたらした。
そして、誰もいないはずの場所で誰かと話し、そして笑った。
人々はその少女を畏怖し、魔女と呼んだ。
少女の両親ですら、少女を愛そうとしなかった。
魔女の娘を捨てなかったのは、彼女が持ってくる実りがあまりに多かったため。
戦争で荒れ果てた小さな村。生きていくのがやっとの毎日。
たとえ魔女の力であってもその実りを捨てることは出来なかった。
だから、少女の収穫が少ない日は容赦なく打ち据えた。
いつも傷だらけの少女を誰も助けようとはしなかった。
そんなある日、魔女の噂を聞きつけたある団体が少女に会いに来た。
結果は、両親が手にした袋一杯の金貨と、生まれた家を去る少女が知っていた。
それが少女の悪夢の始まり。
「俺は、両親が死んだ後は盗みとかで生きていた。
そしたら奴らが俺や俺の仲間を捕まえて変な場所に送り込んだ。そこで会ったのがカルメラだった。
と言っても、そのころからそんなにお喋りじゃなかったけどな。」
「それ…それって犯罪じゃないか!」
「ここじゃあな。だけど、これは余所の国の話だ。コーセルテルは平和なほうさ。
外の世界はもっと汚い。ミラン、お前が知らないだけさ。
言っちゃなんだが親に売られた子ども、親に死なれた子ども…珍しくない。
生きてるだけマシなんだ。」
「そんな…。」
「やめるか?ここからはもっとすごい話になるぞ。」
「…ううん、聞かせて。」
「はっ、良い根性だな。いいぜ、話してやる。」
大人たちは絶えず実験を繰り返した。その具体的な内容はよくわからない。
けれど、日増しに仲間たちは死んでいき、最後に残ったのは俺とカルメラだった。
俺が出来たのは土を動かす程度、でもカルメラは大地を割った。
実験は次第に別の方向へと変えられた。
すなわち、うまく敵を倒す方法。
その優しい声に与えられたのは、より力を発動しやすくするための呪文。
その小さな手に与えられたのは、敵を倒すための剣。
耐えられるはずがなかった。仲間の死に何度も涙を流すような彼女には。
そして、壊れた。
「壊されたってのが正しいかな。カルメラが奴らに反抗したことがあってな。
そしたら、道具に心はいらんって暗示かけられて、心をボロボロにされたらしい。
暗竜術士が見てくれたけどさ、直るかどうかはわからないそうだ。
竜術も大したことないな。」
「…ダグ。」
「なさけないよな。仲間も助けられないで。
…あそこから逃げれたのは、前から俺たちに優しかった人が逃がしてくれたからだ。
その人は最後に追っ手を引きつけて…後はどうなったか知らない。
オマケにカルメラの友人って精霊がここまで案内してくれて。
…俺は何も出来やしない。仲間が死んでいったとき、一緒に泣いてくれたのに。
追っ手に追われてた時、壊れて反応がなくなったはずのこいつが、急に動いたんだ。
…そして、追っ手を退けると同時に傷を負った。
俺が出来たのは、こいつを背負ってここにたどりつくこと。」
「うん、それはよく覚えている。」
覚えている。小さな少女を担いで必死な目をしていた君を。
何度も何度も、自分だってケガをしているのに。
カルメラを助けて欲しいと叫んでいたことを。
「情けないよな、本当に。」
「そんなことないよ。」
うん、それだけは絶対に言える。
「…なんで?」
「だってさ、君がその子を担いでこれなかったら、その子死んでたんだよ。
母さんが言ってた。あと少し、診せるのが遅かったら死んでいたって。
君はちゃんとその子を助けたんだよ。」
「…助け…た?」
「そうそう、胸はって言えるよ。
ああ、それとね、母さんがもしかしたら、根気よく話しかけてたら起きるかもしれないって言ってたから。
僕も出来るだけここに来るし、フェルリも協力してくれるって言ってたし、みんなでいっぱい話しかけようよ。」
「おま…なんでそこまで。」
「だって、僕たち友達だろ?それに僕はカルメラともお話してみたいんだ。」
「………お前、お人好しだろ。」
「いいじゃん!お人好しだって悪くないでしょ。」
「それもそうだな…ありがとな。」
「どういたしまして。」
魔女とか兵器とかそんなの関係ない。
だって友達だもん。
だから、君も早く起きて欲しいな。
話したいこと、一緒に行きたい場所がたくさんあるんだ。
だから起きて、カルメラ。
ミランは夕飯の時間だから帰らせた。
泊まりたいとは言っていたが、急で家の人にも言ってないというから無理矢理追い出した。
「家族がいるんだったら、そっちで食べた方がいいよな。」
「………。」
治る可能性は低い。でも決してゼロではない。
そう言ったのは、ミランの母親だった。
諦めるな。そう言ってくれた。傷が深いほど治りづらいものだから。
心の傷は見えない分やっかいだからと。
心を閉ざすのは心を破壊されたからではなく、彼女自身が閉じこもったのだと。
暗示によって心を消されようとした。それを嫌がって自ら心を閉じた。
それが竜術士たちの診断。
ここが安全で、ここが安心できる場所だと。
彼女を癒し、守るのが治療法になると言ってくれた。
正直、ここのやつらも同じだと思ってた。
俺たちをこんな風にしたやつらと。
全員が全員、俺たちを認めてくれたわけじゃあないし。
今も追い出そうとしている奴らがいることは知っている。
…でも、こうして優しい手を差し伸べてくれた人たちがいる。
「…ここ、怖いことばかりじゃないぜ。あいつら…お前のダチも言ってたろ?
ここなら安心して暮らせるって。あいつらもお前を治す方法を探してる。」
物言わぬカルメラをそっと抱きしめる。
仲間の中でただ一人生き残った少女。
力に怯え、人に怯え、何度震えるこの子を抱きしめただろう。
自分にとってはたった一人の“妹”。
「ミランやフェルリもお前と遊びたがってるからさ。
だから、早く起きろよ。カルメラ…。」
物言わぬ少女は反応を示さない。
けれどこの日、少女は何かを感じた。
“…優しい風…温かい。”
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