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Promise 始まりー2


    ある小さな村に一人の少女が住んでいた。
    何もないところから火を生み出し、水と戯れ、風と遊ぶ。
    少女が望めば土は実りを増やし、木々は新たな花を咲かせた。
    どんな暗闇でも迷わず歩き、光が途絶えた場所に光をもたらした。
    そして、誰もいないはずの場所で誰かと話し、そして笑った。
    人々はその少女を畏怖し、魔女と呼んだ。
    少女の両親ですら、少女を愛そうとしなかった。
    魔女の娘を捨てなかったのは、彼女が持ってくる実りがあまりに多かったため。
    戦争で荒れ果てた小さな村。生きていくのがやっとの毎日。
    たとえ魔女の力であってもその実りを捨てることは出来なかった。
    だから、少女の収穫が少ない日は容赦なく打ち据えた。
    いつも傷だらけの少女を誰も助けようとはしなかった。
    そんなある日、魔女の噂を聞きつけたある団体が少女に会いに来た。
    結果は、両親が手にした袋一杯の金貨と、生まれた家を去る少女が知っていた。
    それが少女の悪夢の始まり。
   
    「俺は、両親が死んだ後は盗みとかで生きていた。
    そしたら奴らが俺や俺の仲間を捕まえて変な場所に送り込んだ。そこで会ったのがカルメラだった。
    と言っても、そのころからそんなにお喋りじゃなかったけどな。」
    「それ…それって犯罪じゃないか!」
    「ここじゃあな。だけど、これは余所の国の話だ。コーセルテルは平和なほうさ。
    外の世界はもっと汚い。ミラン、お前が知らないだけさ。
    言っちゃなんだが親に売られた子ども、親に死なれた子ども…珍しくない。
    生きてるだけマシなんだ。」
    「そんな…。」
    「やめるか?ここからはもっとすごい話になるぞ。」
    「…ううん、聞かせて。」
    「はっ、良い根性だな。いいぜ、話してやる。」
   
    大人たちは絶えず実験を繰り返した。その具体的な内容はよくわからない。
    けれど、日増しに仲間たちは死んでいき、最後に残ったのは俺とカルメラだった。
    俺が出来たのは土を動かす程度、でもカルメラは大地を割った。
    実験は次第に別の方向へと変えられた。
    すなわち、うまく敵を倒す方法。
    その優しい声に与えられたのは、より力を発動しやすくするための呪文。
    その小さな手に与えられたのは、敵を倒すための剣。
    耐えられるはずがなかった。仲間の死に何度も涙を流すような彼女には。
    そして、壊れた。
   
    「壊されたってのが正しいかな。カルメラが奴らに反抗したことがあってな。
    そしたら、道具に心はいらんって暗示かけられて、心をボロボロにされたらしい。
    暗竜術士が見てくれたけどさ、直るかどうかはわからないそうだ。
    竜術も大したことないな。」
    「…ダグ。」
    「なさけないよな。仲間も助けられないで。
    …あそこから逃げれたのは、前から俺たちに優しかった人が逃がしてくれたからだ。
    その人は最後に追っ手を引きつけて…後はどうなったか知らない。
    オマケにカルメラの友人って精霊がここまで案内してくれて。
    …俺は何も出来やしない。仲間が死んでいったとき、一緒に泣いてくれたのに。
    追っ手に追われてた時、壊れて反応がなくなったはずのこいつが、急に動いたんだ。
    …そして、追っ手を退けると同時に傷を負った。
    俺が出来たのは、こいつを背負ってここにたどりつくこと。」
    「うん、それはよく覚えている。」
   
    覚えている。小さな少女を担いで必死な目をしていた君を。
    何度も何度も、自分だってケガをしているのに。
    カルメラを助けて欲しいと叫んでいたことを。
   
    「情けないよな、本当に。」
    「そんなことないよ。」
   
    うん、それだけは絶対に言える。
   
    「…なんで?」
    「だってさ、君がその子を担いでこれなかったら、その子死んでたんだよ。
    母さんが言ってた。あと少し、診せるのが遅かったら死んでいたって。
    君はちゃんとその子を助けたんだよ。」
    「…助け…た?」
    「そうそう、胸はって言えるよ。
    ああ、それとね、母さんがもしかしたら、根気よく話しかけてたら起きるかもしれないって言ってたから。
    僕も出来るだけここに来るし、フェルリも協力してくれるって言ってたし、みんなでいっぱい話しかけようよ。」
    「おま…なんでそこまで。」
    「だって、僕たち友達だろ?それに僕はカルメラともお話してみたいんだ。」
    「………お前、お人好しだろ。」
    「いいじゃん!お人好しだって悪くないでしょ。」
    「それもそうだな…ありがとな。」
    「どういたしまして。」
   
    魔女とか兵器とかそんなの関係ない。
    だって友達だもん。
    だから、君も早く起きて欲しいな。
    話したいこと、一緒に行きたい場所がたくさんあるんだ。
    だから起きて、カルメラ。
   
   
   
    ミランは夕飯の時間だから帰らせた。
    泊まりたいとは言っていたが、急で家の人にも言ってないというから無理矢理追い出した。
   
    「家族がいるんだったら、そっちで食べた方がいいよな。」
    「………。」
   
     治る可能性は低い。でも決してゼロではない。
    そう言ったのは、ミランの母親だった。
    諦めるな。そう言ってくれた。傷が深いほど治りづらいものだから。
    心の傷は見えない分やっかいだからと。
    心を閉ざすのは心を破壊されたからではなく、彼女自身が閉じこもったのだと。
    暗示によって心を消されようとした。それを嫌がって自ら心を閉じた。
    それが竜術士たちの診断。
    ここが安全で、ここが安心できる場所だと。
    彼女を癒し、守るのが治療法になると言ってくれた。
    正直、ここのやつらも同じだと思ってた。
    俺たちをこんな風にしたやつらと。
    全員が全員、俺たちを認めてくれたわけじゃあないし。
    今も追い出そうとしている奴らがいることは知っている。
    …でも、こうして優しい手を差し伸べてくれた人たちがいる。
   
    「…ここ、怖いことばかりじゃないぜ。あいつら…お前のダチも言ってたろ?
    ここなら安心して暮らせるって。あいつらもお前を治す方法を探してる。」
   
     物言わぬカルメラをそっと抱きしめる。
    仲間の中でただ一人生き残った少女。
    力に怯え、人に怯え、何度震えるこの子を抱きしめただろう。
    自分にとってはたった一人の“妹”。
   
    「ミランやフェルリもお前と遊びたがってるからさ。
    だから、早く起きろよ。カルメラ…。」
   
     物言わぬ少女は反応を示さない。
    けれどこの日、少女は何かを感じた。
   
    “…優しい風…温かい。”

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