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フワリ、フワリ、クルッ。
フワリ、フワリ、クルッ。
フワリ、フワリ、ピタッ。
「…いつまで…見てるの…?」
「やあ邪魔するつもりはなかったんだよ。マリア」
静まりかえった広場で、一人で踊っていたときに不意に気配を感じた。
あいつがいると。
「…昼も夜も…見てて…疲れない…?」
「愛するキミを見るのにどうして疲れるかって?
むしろボクは会えない時間こそが苦しくて切なくて、すぐに会いに行きたくなるものサ。」
「ふうん……。」
フワリ、フワリ、クルッ…タン、タタン。タン。
静かに回っているのを止めて、つま先を立ててステップを刻む。
うん、まだいける。
猫のように軽やかに、蝶のようにひらひらと。
歌うのが好きで、踊るのが好きで。
褒められるのが嬉しくて、いつも踊っていた。
ああ、今日はとても良い気分。
私の心に反応して、飛べない羽が静かに広がる。
飛ぶことのできない。ただ存在するだけの羽。
でも、私はこの羽が好きだった。
「今度はダンスかい?キミは音楽とか踊りが好きなんだネ。」
「…キミ…じゃない…私たち…よ。」
昼の時はいつものマリア。歌うときは今の私が出現するが基本は同じ一人。
どちらの時も意識と記憶は共有できる。
私は“夜”。マリアは“昼”
景色が変わってもそこにある空は変わらないのと同じ。
だから、私が踊りや歌が好きなのはマリアも好きだと言うこと。
どっちの姿でもあまり踊らなくなってしまったけど…
フワリと動きに反応して羽が小さく揺れた。
「いつ見ても綺麗な羽だネ。僕はそれを見るのが好きだヨ。」
「自分だって…持ってる…くせに。」
私たちは意識を共有する。
昼やローズと違って指揮や戦闘が出来ない私は表に出ることはないが。
それでも見たこと。感じたこと。痛みや悲しみ。
私たちはすべてを共有する。
別人格となるローズと違い、私たちはあくまで一つだから。
そしてその中で、私たちは見てしまった。
同じ羽でありながら、その役割を存分に発揮できる羽を。
漆黒の闇を思わせるようなあの翼を。
「あるけどキミのほうが綺麗だと思うネ。
まあキミの一部がそれなら、なんだろうとボクは好ましく思う。
前にも言ったろう?キミがなんであろうとボクはキミが好きなんだからサ。」
「人じゃ…ない…かもしれないのに…?」
別人格がいるのはともかく、羽があるっていうのは普通じゃない。
歌は昔はまだ普通…普通だったのかな。
あまり昔のことはよく思い出せない。
いっぱい楽しかった記憶があるのに、それを思い出そうとすると思い出せない。
母さんと父さんの動かなかった体。
かわいらしい笑顔を引きつらせて死んだ友達。
優しい記憶はもう忘れてしまった。
「と言っても。
キミよりボクのほうが人って言えないような状態なんだけどネ。」
「…たしかにね…。」
世の中奇人変人魚人間いくらでもいるけれど。
腕から変な触手みたいのでたり、羽はえたりししてるのは確かにおかしい。
「だからサ、キミがなんであろうと関係はないと思うネ。
どんな姿になってもボクはキミを見分ける自信があるし。」
「…どんなに…なっても…?」
「そう、キミへの愛ゆえに絶対にわかるサ。
何になってもキミがキミだってことは変わらない。
ボクたちの愛という名の絆の前にはどんな力もかなわないサ!」
「…勝手に…いれない…」
…こいつ全然変わらない。
羽があっても、別人格がいたことを知っても全然変わらない。
いつもと一緒。
「ちなみにマリア。ボクが人じゃなかったらどうする?」
「…かわんないよ。アジアンはアジアンだし…
しつこくて、迷惑で…うっとおしい…やつ」
「それはないだろうマリア!迷惑なんてとんでもない。
全てはキミを想うがゆえサ!!」
「…一人で…言ってて…」
勝手に暴走仕始めたのはおいておいて、軽やかにステップを刻む。
タンタタンタンタタン。
ステップにあわせてひらりと舞って、少しずつ手も動かしていく。
タタンタンタンタタ。
なぜだか今日はとっても気分が良い。
普段はあまり歌わないけれど、今日は歌ってもいい。
遠い昔に憶えた懐かしい歌を。
「歌ってく…けど…聞いていく…?」
「もちろん。キミの歌は大好きだヨ。」
たった一人を観客に、私は一人歌い始める。
正体とかそんなものは気にしない。
今このとき、私の前にいるのはただのアジアン。
そして私はただの“薔薇のマリア”
それだけはきっと何があっても変わらない。
…ところで、ボディガードさん…
一人増やしたって…言ったほうがいいのかな?
…まだだめ?…驚かすって?
…まあ二人が…そう言うなら私はいいよ…
教えるときが…楽しみ…だね。
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