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~しつこい奴~「ピンチの時のお約束」


         …最近、変な男につけ狙われている。
        前にちょっとしたことで助け…もとい、人が頼まないのにお節介してきた奴。
        そこまではいい。そこまではいいんだ。
        その男は一度ならまだしも、二度も会ってしまった。
        あげくの果てに、このボクを好きだと言い始める始末。
        はっきり言ってうっとおしい。
        もう一つ言うと、邪魔!
       
        「ってなわけでどっかいって。」
        「つれないなあ。ボクはキミの名前が知りたいだけなんだヨ?
        今日こそ教えてもらえないかな。キミはボクの名前を知っているのに、
   こっちは君の名前を知らないというのは不公平じゃないカイ。」
        「知ってるも何も、そっちが勝手に教えてきたんでしょ。
        僕には関係ないし、教える義務はない。」
       
        そもそもこいつはどうして僕の居場所がわかるんだ?
        二度目にあった後はモリーのところに行った後、どうにかまいた。
        けれど、その後ことごとく僕の前に現れる。
        ・・・・つけてる?
       
        「いいからさっさとどこかに行って。仕事の邪魔。」
        「ふ、つれないなあ。まあそれでこそ我が麗しの薔薇サ。
        君の名前を知れないのは残念だけど、お楽しみに取っておこう。」
       
        ・・・・少しだけ、疑問がわいた。
        薔薇?なんでこいつそれを知ってるんだ?
       
        「なんで薔薇?」
        「へ?ああ。気高く麗しい我が思い人は、薔薇こそがふさわしい花だと思ってネ。
        ただの薔薇じゃあない。孤高の美しき紅の薔薇がキミの花サ。」
       
        そう言って差し出してきたのは真っ赤な薔薇。
        血のような真っ赤な薔薇。けれど、触れる者を傷つけないようにその棘はぬかれていた。
       
        「その薔薇、棘がないんだね。」
        「キミに捧げる花とはいえ、その棘でキミを傷つけるわけにはいかないサ。」
       
        まあ店で抜いてもらったか、自分でやったか。
        ますます変な奴。んでもって、バカだ。きっと。うん。
       
        「まあもらっておく。んで、もらう代わりにどっかいけ。」
        「フ…、これ以上怒らせるとその篭手の矢が飛んできそうだから、
   とゆうかすでにボクに向けられているからこれ以上はやめておくよ。
        またネ、我が麗しの薔薇。」
       
        そう言って男はさっさとどこかに消えた。
        ああ、ようやくいなくなった。
        残ったのは、棘のない薔薇。
       
        「・・・・薔薇ねえ。偶然だろうとは思うけど。
        まあいいや。稼ぎに行こう。」
       
        赤い薔薇をリュックに入れて、今日の目的地へと行く。
        僕のような弱い侵入者は一日たりとも休めないんだから。
        今日はただでさえ、さっきのあいつが邪魔をしてきたから予定の時間を過ぎている。
        まったく、大した疫病神だよ。
        あいつ、本当に虐殺人形なんて名がついた有名人?
        まあ強いのは確かだったな。
        でもねえ…まったく見えない。
       
        『マリアが邪魔なら、殺してあげるよ。』
       
        誰もいないはずの路地裏で、ささやくように聞こえるもう一人の僕の声。
       
        「いいよ。そのうち飽きていなくなるだろうから。」
        『あら、寂しいわ。もうちょっと遊ばせくれてもいいじゃない。
        それにさっきの男。戦いがいがありそうだったわ。
        私でも危ないかもねえ。』
        「ローズ。だったらやめて。ローズがケガをするのを見たくないから。」
        『残念、またの機会にするわ。またね、“可愛い私のマリア”』
        「お休み、“愛しい薔薇”」
       
        まったく、ローズは誰に対したって厳しいんだから。
        まあ心配なんだろうな。
        よりにもよって、僕がこんな仕事やってるから。
        そりゃあね。来た頃のように歌手の仕事をやるのは楽しいと思う。
        でも、色々歌ってみて、大変だったからさ。
        それに…思い出してしまうから。
        歌が何より大好きで、歌を愛していた母さんのことを。
        ごめん、ローズ。
        今の僕は…歌が嫌いなんだ。
        子どもの頃のように、純粋にただ歌が好きだと言えない。
        だから…今の僕は歌えない。
       
        「シャアアアアア。」
        「…げ。」
       
        しまった。考え事をしていて油断した。
        奴らに近すぎた。
        やられる・・・・…
       
        ・・・・・ん?変だ。痛くない。
        それに周りが静かだ。静かなのが怖いくらい。
       
        「大丈夫カイ?」
        「・・・・・・へ?」
       
        目の前にあったのは、的の残骸とあのバカ。
       
        「なんでいるのさ。」
        「ふ、やはり愛しのわが薔薇が一人でこんなところにいるのは忍びなくてネ。
        いざとなったら、ボクが助太刀しようと。」
        「ずっとつけてたと。」
        「・・・・…ふ、まあ結果良ければ全てよし。」
        「うっさい。死ね。どこかへいけ!この変態ゴキブリバカストーカー野郎!!」
        「ちょ、まってくれ。いい加減、ボクの名前を呼んでくれたっていいじゃないか。
        そんな妙な呼び名・・・・」
        「お前なんかバカか、ストーカーか、変態で十分。
        ま、一応感謝はしとく。
        「・・・・・・え。」
        「なにほうけてるのさ。暇なら手伝え。戦利品あさるんだから。」
        「キミは、ようやくボクのことを認めてくれたんだね…」
        「何バカ言ってるのさ。人手欲しいだけに決まってるでしょ。
        あ、でも君が自主的に協力してくれたってことで分け前はなしね。」
        「ふ、このくらいどうってことないサ。キミにボクの愛が伝わってくれただけで十分だヨ!」
        「・・・・人の話聞いてた?」
       
        ああ、やっぱり殺してもらった方がよかったかもしれない。
        このストーカー野郎との付き合いがしばらく続いたのはいうまでもない。
        ってゆうかまだ続いてるんだけどね・・・・。

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