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暗闇のなか


 光を通さない暗闇の世界。
光を失った少女は、ずっとそこで暮らしていた。
色も光もないこの世界で、少女が唯一知ることが出来たのは赤。
それも血のような鮮血の赤。

パシャ…………パシャン……パシャ……ドシャ

『主上、終わりましたか?』
「うん…おわったよ。カイ。」

 暗闇の一部だけが色が違う。それは白に見えた。誰かが白装束を着ているのだ。
けれど、元は白かったであろう白装束は今は見る影もなく赤に染まっている。
その装束は幼い少女が着ていた。その手に鮮血を滴らせながら。
どこか人形めいた表情を浮かべたその少女は、足下の何かに手をかざす。
それは炎―――――。地獄の業火のごとき炎。
足下の物体は、瞬時に燃えた。存在の証拠に痕跡だけを残して。

「かたづけはちゃんとする。できた?」
『ええ、出来ましたよ。』

 その言葉に少女は嬉しそうに微笑む。けれどどこか笑っていない。
少女の外見は変わっていた。悪い意味ではない。
銀色の髪に金の瞳。髪と同じ銀の尻尾。
そう、少女は妖孤。魔界の中でも容姿に優れた一族の一人。
ここが光あふれる場所であったなら、彼女の銀色の髪は光を受けて煌めくであろう。
ここが月光注ぐ場所であったなら、淡い光を受けてたなびくであろう。
けれど、ここは暗闇。光を通さない暗黒の世界。
生み出される光は、少女の銀の髪がわずかにもたらす色の変化だけ。
なぜ、幼い子どもがここにいるのだろう。
その手を血に染めてまで。

「カイ、またあいつらくる?」
『来るでしょう。ここに宝があるとの話は有名ですからね。
今頃玉藻様が選別なさっているでしょう。」
「そしたら、またこわせばいい?」
『ええ、そうですよ。あなたが壊せばもうやつらは来ません。
大丈夫。やつらは宝を守る守護者を打ち倒せなかった。
それは私を持つ資格がないと言うこと。
あなたは何も気にせず壊していればいいのです。』
「そうすれば、そとにいける?」
『ええ。きっと外に行ける日が来ますよ。』

少女は誰かと話している。
それは暗闇の世界のさらに奥。そこに置かれる黒いカーテンで覆われた台座。
そこから何かの光が漏れてくる。それは黒。光と対象であり、対であるもの。
この世界の光は、黒い光だった。
ふと、先ほどの炎が部屋を駆け抜ける。
炎が過ぎ去った場所には、赤で描かれた魔法陣が見える。
それは炎が生まれるよりもずっと前に描かれていたもの。
炎が去ると、その魔法陣の赤は先ほどよりもずっと濃くなっていた。

「ふく…よごしちゃった。」
『向こうの泉で洗って来てください。どうせやつらはしばらく来ませんしね。
早くしないと血が乾いて落ちづらくなりますよ。』
「うん…そうする。」

 小さな足音は闇の向こうへ消えた。
少女は誰と話していたのだろう。そこには誰もいないというのに。
部屋には水のはねる音だけが響いていた。
しばらくすると、先ほどの少女が戻ってくる。ずぶ濡れのまま。

『主上。せめて乾かしてきてください。風邪を引きますよ。』
「…かぜ?」
『熱や咳が出る病です。また玉藻様が心配されますよ。』
「ねえさま……しんぱい?」
『そうですよ。さ、早く乾かしてください。火を使えばすぐですよ。』
「そうする…」

少女の小さな手から炎が生まれた。
それは―――――白い炎。すべてを浄化する汚れ無き炎。
炎が少女を取り巻くとしたたり落ちていた滴が蒸発した。

「…かわいた?」
『お疲れ様です。いつもながら見事な炎ですね。
持続させておけばこの部屋だって明るくなるのに、なぜそうされないのですか?』
「つかれるから。それに…」
『それに?』
「ひかりをみるのはそとにでるときと、ねえさまとやくそくしたから。
そとにでたときのたのしみ。」

銀の少女は部屋の台座へと近づいていく。
そこにあったのは、黒い宝玉。
少女の手のひらより少し大きいそれは、黒い光を投げかける。
そして、少女が呼んだ。

「カイ、ほのおきれい?」
『ええ、綺麗ですよ。」
「じゃあ、こんどはかぜのれんしゅうする。」

始めは小さな揺らぎだった。
部屋の中に生まれた小さな風は、少女の手の動きに合わせて踊り始める。
風―――――それは自由の象徴にして荒れ狂うもの。
しばらく部屋の中を踊り、そして消えた。

『初めてにしてはお上手ですね。」
「そう?カイがいってくれてうれしい。」

少女は褒められたのが嬉しそうに、笑顔を浮かべる。
そして、また手をかざした。
雷―――――それは神のもたらす断罪の光。
部屋に満ちた雷は、今扉から入ってきた人物を打ち倒す。
叫び声一つあげずにそれは倒れた。

「ちょっとはやかった。しっぱい。」
『かまいませんよ。
あなたを倒せなかった時点で、その男は私を手にするにふさわしい人物ではなかったと言うことですから。
不意打ちとはいえ、それをよけることも耐えることも出来なかったのですしね。』
「またおかたづけしなきゃ。」
『お手伝いできず申し訳ありません。』
「カイがあやまることない。」

少女はその小さな手に、黒い宝玉をのせる。
彼こそがカイ。少女の唯一の友人。そしてここにいる理由。

「カイがあやまるなら、かわりにはなしきかせて。」
『何の話が良いですか?』
「ひとりぼっちのめがみさまのおはなしは、ずっとまえにきいた。
ひとりぼっちのめがみさまがあるひととであったはなしはまえにきいた。
あたらしいおはなしが、ききたい。」
『では…今日は女神の話の続きをしましょう。
一人では、なくなった女神のその後を。』
「カイのおはなしだいすき。」
『あせることはありませんよ。時間はまだたくさんありますからね。』
「うん。」

それは遠い昔の遙かな記憶。閉ざされた時間の中の話し。
思い出されるのは光を通さぬ暗闇の世界。
そして、たった一人の友人。今は会えぬ友。

『ねえ、空ってどんな色をしてるのかな。』

それは、まだ心が正気だった頃の会話。
その答えはまだ知ることが出来ない。

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