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その子に出会ったとき、まるでお人形さんみたいだと思った。
ヘイゼル色の瞳は誰の姿を見ても動くことはなく。
白砂色の髪は腰まであったけど、見る影もないぐらい汚れている。
全身を覆っているマントは至る所穴だらけで、正直僕と同じぐらいなのによくこんなところまで来れたと感心してしまった。
「助けて・・・・この子を・・・・カルメラを助けて!!」
そう言われるまで、僕は気づかなかった。
その子のマントの一部が紅く染まっていたことを。
突然だが、ここはコーセルテルと呼ばれる竜の都である。
場所は海と山に囲まれた一角…としか言いようがない。
住んでいるのはもちろん竜と人間と精霊と獣人。
僕はそのうちの…竜と人間の間に生まれた子だ。一応未来の竜術士。
と言っても、空を飛ぶくらい。まだそんなに飛べないけど。
そりゃあ術の練習はそれなりに楽しいけど、今の僕にはもっと興味のあることがあった。
この、お人形みたいな子…カルメラと話をすることが目下の目標だ。
「というわけで、まずは自己紹介からいこうと思うんだ。僕はミランっていうんだ。
君と一緒に来た子はダグだっけ?君のお兄さんかな。」
「……………。」
「それにしてもここに来るの大変だったでしょ。
僕もてっぺんまで飛んだことあるけどずっと遠くまで山でさ、街なんか全然見えなかったよ。
いつか外の国を見に行くのが夢なんだけどさ、それにはもっと飛べるようにならないとね。」
「……………。」
「カルメラは遠くの国からきたんでしょ。そこってどんな国だった?
やっぱりここみたいに人の多いとこだった?それとさ、海とか近かった?」
「………………。」
「…………………………。やっぱりダメか。」
カルメラがここにきて一月。彼女は一度も喋らなかった。
大人たちが言うには、心身におった傷が原因…よくわからなかった。
最初に来たときには生死の境をさまよって、一緒にここに来たダグ…なんか兄妹ではないらしい…がずいぶん心配してたっけ。
そのダグはここにはいない。
なんでも彼も竜術士の資質があるからならないかって勧められているから。
ここに来た以上、やれることをやりたいって乗り気だったから、きっとなるんだろうな。
術能力が高いから、僕やフェルリみたいに竜の中でも上位の竜を預かる可能性がある。
そうなると、嬉しいな。
僕らみたいに族長や守長候補を預かる竜術士は、種族ごとに1人って決められてる。
ああ、でもフェルリのように全部の属性持っていたらうるさいだろうな。
1代に竜王は一人って決まってるから、これでダグが全部持っていたりしたら…絶対もめるに決まってる。
長老たちの掟もうるさいしな。僕だって、早く結婚して子どもを増やせとか言われてる。
まだ子どもだっていうのに、冗談じゃないよ。
大体、兄妹みたいに育ったフェルリか、僕がこれから預かる子竜の誰かってのが気に入らない。
なんだってそんな風に指図されなきゃいけないんだよ。
「気持ちはわかるが、段々声が外に出てるぞ。」
「え?」
部屋に入ってきたのは僕と同じ黒髪の少年…ダグだった。
「いきなり入ってこないでよ。ビックリするじゃないか。」
「何度も声かけたぞ。気づかなかったのはお前の方だろう。」
そう言ってスタスタと近づいてきて、カルメラの頭をなでた。
「ただいま、カルメラ。遅くなって悪かったな。」
…こいつ、絶対他の人とカルメラへの態度使い分けてる。
短い付き合いだがよくわかってきた。
まあここに来たばかりの頃は、誰に対しても警戒していたから少しは気を許してくれるようになったかな。
…カルメラだけが変わらない。僕は一度も彼女の声を聞いたことがない。
「ミラン、悪いな。面倒みてもらって。」
「ううん。大したことしてないよ。それに留守にするの心配だったんだろう?
どのくらい掛かるかわからなかったしね。それで、決まったの?」
「ああ、取りあえず星の五竜の属性持ちだったみたいだから、あとは適正見て決めるらしい。
手続きとやらがあるとかで連絡待ちだ。」
「ああ、僕と同じか。だったらきっと風以外のどれかだね。」
「…なんで風以外なんだ?」
「風は僕がいるからね。フェルリは竜王の竜術士候補だから関係ない。
君がなるのは風以外の竜術士ってわけ。」
「案外面倒なんだな。」
「まあうるさいのは今に始まったことじゃないし。…カルメラはどうするの?」
「一緒に住まわせてもらうことにした。まあ術の訓練の時は…誰かに面倒見てもらうか、一緒に連れて行くかだな。こっちの言葉が聞こえてないってわけじゃないから、まだ楽だ。
「そっか。家でよかったら連れてきてもいいよ。」
「いいのか?お前の家の竜、俺たちのことよく思っていなかっただろう。」
「シルヴィースのことは放っておいていいよ。困ったときはお互い様って言ってるのにね。
まだ君たちのこと信用してないみたい。」
「そりゃあそうだろ。なんたって俺たちはよそ者だからな。」
「…そういえばさ、君とカルメラってどういう関係?兄妹…じゃないよね。」
年は近い。でも2人の容姿は全く似ていない。
たった2人であの山を越えてきた子ども。
そして片方は死にかけていた。
始めはこの2人を警戒し、追い出そうとしたらしいが僕の母さんの一言で受け入れた。
何でも、族長たちを前に笑顔で言ったそうだ。
『助けを求めてきた子どもを平気で放り出そうなんて…ご立派なことねえ。』
とてつもなく怖かったと後からシルヴィースがぽつりと言っていたのが印象的。
そりゃあ、竜術士の中でもトップクラスの母さんを怒らせる方が悪い。
僕だって怖いんだし。
「…俺たちは兄妹じゃない。いわゆる…実験台仲間さ。」
「はあ?」
「俺たちのいた国は年中戦争をしていて、俺の両親は戦に巻き込まれて死んだ。
国の奴らはより力を求めようと、新たな兵器を作ろうとしたんだ。」
「兵器…?」
「俺たちのところでも、魔獣術とか竜術は知られてたからな。
人間単独で術が出来ないかと研究されてたらしい。俺もカルメラも術能力の高さを買われて集められた。」
「…カルメラも術が使えるの!?」
「カルメラは俺以上だよ。…だからそうなっちまったんだ。」
“お兄ちゃん。ダグ、怖いよ。私が私でなくなってしまう。”
それが彼女が残した最後のメッセージ。
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